新・永山あゆむの小さな工房　400字小説　存在履歴書(そんざいりれきしょ)



薄暗い昼間の雨空が、少しずつ黒に染まっていく。うっすらと聞こえる、慌てふためく人の声。あたしが今、どのような状況なのか、理解できた。　大丈夫、あたしはここから出ていく。これが愚かな行動とは分かってる。だけど、ここにあたしの居場所はない。言いたい放題の罵倒、大人からの冷たい視線、あたしが咆えても、彼らは耳栓をしている。これ以上の愚かなことがあるだろうか。もうたくさんだ、多くの人がこう思ったはずだ。　幸せになりたかったな。家族や友達とたくさん思い出を作って、彼氏も作って、結婚もして……。　あたしが生きた証は、だれが伝えるのだろう。きっとだれもいない。哀しみで蔓延したこの世界のどこにも。　――ねぇ、だれか作ってよ……黒く染まっていく、あたしの存在履歴書を。
＜ライナーノーツ＞　今までの作品の中で、群を抜いて暗い話になりました。　最初は、就活で何度も落とされて、自分の履歴書＝自分の生きた過程が分からなくなるという、就活をしていた人には分かるようなお話だったのですが、いまひとつ何かが足りないと思いまして……掲載直前に1から書き直しました。そしたら、180度違ったものに。　最近は10代の自殺など色々と悲しいニュースがありますが、もし自分がそういう立場になったらと思うと、悲しく悔しい気持ちでいっぱいになります。自分にもそういった境遇があるので。大人も子供も、そして自分も、思いやる心、支え合う心を大事にしてほしいです。＜2017.06.01.＞
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