新・永山あゆむの小さな工房 タイトル

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第四章(4)



『冷たい夜に キミの名を呼んだ
 その声は閃光のように かき消された

 こんなにも想っているのに 何で遠ざけるの?
 ねぇ 教えてよ!
 わたしのナニがイケナイの……

 月の光の中で 私は見ているわ
 背中からキミを包み込んで
 一緒に行きたい わたしの『勇気』を与えたい
 「側にいたい」と叫んでいる

 雨降る夜に キミの涙が映った
 黒く塗りつぶされて 涙があふれた

 この雫を照らしたい キミを輝かせたい
 ねぇ 教えてよ!
 わたしにデキルコトを……

 キミの手を わたしがつかむわ
 「いつも側にいるから」
 振り返れば いつもここに立っている
 キミの力になりたいから』


 ネオからの、胸に痛いほど伝わる自分への気持ち。

 実緒の胸にぽっかりと開いた孔に、ネオから貰った、金色にキラキラと輝く月の雫で埋めつくされる。自然と涙が零れる。

 間奏に流れるエレキギター、エレキベース、ドラムの優しい音色が、自分を闇から引きずり出していく。

 そして、ネオが実緒の手を掴むように――


『その手をつかんだ瞬間 扉が開いた
 一緒に行こう
 わたしたちはひとりじゃない
 もう 怖いものはないよ』


 涙で濡れた瞳を輝かせて、ネオは力強く――


『キミの手を わたしがつかむわ
 「ここにいるから」
 振り返れば いつも叫んでいる
 キミの名前を

 あの月の光の中で

 見守っているから……』


 歌にのせて、実緒を光の世界へと連れ出した。

 ネオは涙を見せながら、精一杯の笑顔を作る。そしてメンバー全員で、聴いてくれた観客に一礼した。

 学生や大人たちの心に響いたのか、彼女たちが舞台から降りるまでの間、会場は暖かい拍手に包まれた。

 そして実緒は、

「……う……ううっ」

 跪(ひざまず)き、学生たちの後ろで泣き続けた。茜が、彼女の背中を擦(さす)った。
 実緒の瞳から伝っているそれは、黒ではなく、純白の涙だった――。



※※※




「「「「かんぱーい!!」」」」

 総合祭の片づけが終わり、ホームルーム終了後。

太陽が沈みかけ、星や満月がうっすらと見える中、四人はプレハブ小屋でドリンクをコツンと当て、ささやかな飲み会をしていた(もちろん、学生服に着替えている)。

 ライブは大盛況のうちに終わった。

 四人は各クラスで、「楽しかったよ」「いいライブだったぜ!」「あの曲良かったぜ」など、クラスメイトから賞賛の言葉をもらい、喜びを噛みしめた。

 自分たちのライブという『瞬間』を、彼らの胸中に刻まれていることに。

「あっという間だったね……」

 夕日を見ながら座っているネオがポツリと呟く。

「うん。だけど、楽しかったね」

 ネオの呟きに、右隣にいるみちるが答え、

「そうっスね。最高だったス」

「……はい」

 健斗と巧が続く。

 彼女たちは達成感で溢れた顔つきだった。どんな風に楽しかったと聞かれても具体的な理由などない。ただただ、あのステージが楽しかったのだ。

 こんな異例な部活に『特別枠』としてバックアップしてくれた、生徒会と総合祭実行委員会には感謝しないといけないなとネオは思った。

 そして、自分についてきてくれた三人にも。

 実緒の件から今日にかけてネオは、自分の背中にはこの三人やクラスメイトの友達、ライブを見に来てくれる人たち、家族など、力になってくれる人が背中にたくさんいるという自分に改めて気づくことができた。

 自分もこの『瞬間』を忘れてはいけない、いや、忘れることのできないものとなった。

 これからも自分と自分を支えてくれる人を大事にしながら、歌手と言う夢に向かって強く生きていこうとネオは思った。頼れる仲間がいるのだから。

「……それにしても巧、おまえ、また女子たちにサインを求められていたよな……」

 健斗はじろり、と巧を見つめる。

「い、いやあ……そ、それは……」

 巧は後ろ頭に手を当て、顔を赤らめる。

「そうなの!?」

 ネオはクイッ! と急に巧の方へと振り向く。

「巧、モッテモテじゃないのよー」

 やるねぇ! とみちるは巧の背中をバシバシ叩く。

 うげっ! と巧は呻く。

「そーなんスよ! オレは巧よりも先に教室に帰ってたんスけど、しばらくすると廊下から女子たちの声がうるさくて、なんだと思ったら、コイツが渋々(しぶしぶ)とサインを書いていやがったんですよーっ!」

 涙ぐんだ表情で巧に指を差す。

「そ、そーいうー健斗だって、サインを書いてたじゃないか!」

「違う! オレはサインを書くぞーとアピールしても、『ナル男には興味はないっ!』『アニオタはどっか行けっ!』って断られたんだよ! おまえだけいい思いしやがって」

 立ち上がり、こんのー! と巧の首を健斗は絞める。

「ぐええええ――っ!」

 蛇のような腕を前に、巧は喚(わめ)く。これで健斗はロックフェスから巧に二敗目。悔しさが滲(にじ)み出ている。

「……ったく、もーっ! なんで、なんでこうなるんだーっ!!」

 巧から離れ、健斗は俯いて両手で頭を抱えた。

「まあ、ナル男はナル男だからねぇー」

 ぐふふ、とネオは悪戯っぽい笑みで健斗を見つめる。

「そうッスよ! だいたい、ロックフェスや毎月のライブで、ネオ先輩がオレをナル男って言うから、こうなったんじゃないっスか――!!」

 ネオに向かって指を差す健斗。

「いやいや、あんたがアニソンを歌うからでしょ!」

 ネオも立ち上がって健斗を責(せ)める。

「アニソンは関係ないっス! どう見ても先輩のせいっス! この殺人鬼ヘアーが!」

 健斗はネオに近づいて反撃する。

「わたしは真実を言ったまでよ! こんのナルシスト!」

「ナルシストはそっちだろーっ! ワガママリーダー!」

「ワガママなのはそっちも同じでしょー!」

 う――――――っ!

 飲み干したペットボトルをギュッ! と握りしめ、バチバチと火花を散らすネオと健斗。

 もう! とみちるが割って入ろうとするが、

「みんなーっ!」

「「!?」」

 文化祭実行委員長である大山茜がやってくる。

「あっ……なんか、タイミングが悪かった?」

 二人の睨み合いを目の当たりにして、茜は慄(おのの)く。

 ネオと健斗は彼女の顔を見て、硬直(こうちょく)する。

「い、いえ、全然!」

 みちるはそういうと、後ろからネオの背中を叩く。
 ネオは慌てて、

「そ、そうね! みんな! 整列!」

 リーダーの指示で、四人はサッ! と靴を履き、先輩と向い合わせになって綺麗に横一列。

「ははは……そう堅くならなくてもいいのに」

「茜さんには頭が上がりませんよ。この度は本当にありがとうございました」

 メンバーを代表して礼をするネオ。

「いえいえ、こちらこそ最高のライブをありがとう。それで、ちょっとお客様を呼んだんだけど……」

「お客様?」

「うん。竹下さーん!」

「えっ?」

 茜が呼んだ名前に、ネオはビクッとなる。

 彼女の向いている方向――校舎の角から一人の女子が現れる。それはブレザーとスカートを正しく着た、見覚えのある彼女――竹下実緒だった。

 久しぶりのネオに、

「ね、ネオ、ちゃん……」

 身体を震わせながら、恐る恐るネオの顔を見上げる。

 そんなネオに、

「なーに怯えてんのよ、実緒!」

 気負(きお)うことなく、明るい表情で彼女を見つめるネオ。

「わたしの曲、聴いてくれた?」

「うん。CDよりも、すっごく、良かった……」

「そう。よかった、一週間頑張った甲斐(かい)があったよ」

 ネオは実緒に微笑む。

「ネオちゃん……わたし、わたし……」

 実緒の瞳から大粒の涙が溢れる。

「謝り、たくて……」

 うっ……ううっ……。

 ネオはそんな実緒を優しく抱きしめて、

「なんでアンタが謝るのよ。ありがとう、来てくれて」

「ネオちゃん……!」

 ネオの胸の中で、実緒は子供のような泣き声をあげた。それは悲しい涙ではなく、嬉し涙であった。

 「ごめんね……ごめんね……」と実緒は言い続けた。

 ネオは彼女の頭を優しくを撫(な)でた。

 ――これでもう大丈夫。一緒に、『夢』に向かって頑張ろう。

 抱き合う二人を、みちると健斗と巧、そして茜は微笑んだ。



 プレハブ小屋から見える満月が、二人を優しく照らした。

第四章END 


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