永山あゆむの小説・シナリオ創作ホームページです。
第四章(3) | ||
彼女たちに送る歓声とリズムに合わせた拍手が鳴りやまぬ中、自分たちで決めた順番で順調に歌いこなすmoment's。本来ならプロのアーティストの曲も混ぜるのだが、今回は総合祭。特別な舞台なのだ。 自分たちが作ったオリジナルの曲で、勝負する。 「じゃあ、次の曲いくよ――――っ!!」 テンションの高いネオの声に、学生たちが、ウワアアアアアア――――――――!! と講堂中に声を響かせ、ネオに答える。彼女も歌で学生たちに応えていく。 そしてトークを交えた後、 「まだ聴きたいかあ――――――!!」 「聴きたい――――――!!」 「オッケー!! それじゃあ、景気よくいくわよぉ――――――!!run thought(ランスロー)!」 ロックフェスでやった、あのオリジナル曲を披露(ひろう)。今回は、総合祭バージョンにアレンジした、ネオたちにとって『とっておき』の曲となっている。 「いくぜーーっ!」 みちるが叫ぶ。 ギュイイイイイイ――――――ン!! 彼女のエレキギターから、頭を狂わせるほどの大音響が講堂全体に響く! まるで彼らの脳内にある、ぐちゃぐちゃに渦巻(うずま)いているたくさんの悩みを、音に変換して絶叫しているかのようだ。 「未来(さき)へ行くぞ――――――っ!!」 ネオの叫びと共に、講堂が震動(しんどう)した! みちるの重厚(じゅうこう)なギターの響き、健斗のドラムさばき、そして、間奏のときに、 「かっこいい――――――!!」 と女子学生から言われながらも、みちると一緒に前へと出て、楽しそうに曲を引き立て、自分のエレキベースのテクを見せつける巧。本番前のうじうじした彼とは違う。今日もエンジン全開だ。そして、彼に対抗する、健斗のドラムさばき。リーダーであるネオの歌唱力。 曲が終わるたびに拍手喝采(はくしゅかっさい)、歓声が轟(とどろ)く! その大波に乗るかのように、自分たちのボルテージも高くなる! 自分たちの音楽で! まさにネオが望む『自分たちと観客がこの瞬間だけ一つになる』ステージへと登りつめていった。会場は完全に自分たちのものとなった。 ネオは、ここでやる喜び、ライブの楽しさを肌で実感した。一生懸命やってたら、観客たちが応えてくれる、この高揚感と充実感、そして歓喜。一年生のころから目標にしていたものが具現化され、ネオの中に、言葉では表現できないような『喜び』が満ち溢れていく。だが、それはまだ、完全に満たされていない. ……彼女がまだ、いない。 だが、ネオが思うのとは裏腹に、時間はあっという間に過ぎていく。 「えー、楽しい時間も残念ながらね、これが最後の曲になって、」 「ええ――――――――――っ!?」 ライブではつきものの、残念がる観客たちの声。 「もう時間がないんだぁー、次のプログラムがあるからねぇ……」 ネオは残念そうな声音で観客に答える。 「イヤだ――――――っ!!」「まだやって――――――!!」という声が聞こえる度に、ネオに笑みがこぼれる。諦めずにバンドをやってよかったと思える。 「それじゃあ……最後にふさわしく、とびっきりちょ――――――ういい曲を歌うからさぁ、それでいい?」 とネオは観客に訊ねる。 「いいよ――――――っ!!」と女子学生の声、「やれやれ――――――っ!!」と男子生徒の声。 『あの曲』を歌う準備は整った。 あとは彼女がここに来るだけ……。 この舞台の『主役』。ネオの想いが詰まった歌を捧げる唯一無二の親友。 ――実緒。 ※※※ 朝と放課後に学生が行き交う下駄箱前の階段で、総合祭実行委員長の大山茜がブレザーを膝にかけて座っている。 「はぁ〜」 雲一つない青空の陽気に似合わないため息が漏れる。 ここに座って、かれこれ1時間弱が経過。 「待ち人来ず、って感じだね」 「隼人」 下駄箱の方から、夏服姿の片平隼人がアクエリアスを持って、彼女の下へとやってくる。 「はい」 「あ、ありがと」 アクエリアスを渡し、茜の左隣に座る。 「隼人っていっつもこれだよね」 茜はペットボトルのラベルを見つめる。 「だって好きなんだから」 ゴク、ゴク、と喉(のど)を鳴らして飲む。 茜も隼人に続く。 「ぷっはぁーっ! ……ねぇ、ホントに来ると思う」 茜は隼人に訊ねる。 「どうだろうね。麻倉さんがそう言うんなら、来るんじゃない?」 「何よ、それ」 「彼女を信じているから、待っているんでしょ?」 「そ、そりゃあ、そうだけど……」 ネオからライブ前に、「学校に来なくなった親友を、わたしのクラスメイトの竹下(たけした)さんを呼んだから、来たらソッコーで連れてきてください。お願いします!」って頼まれたときの、彼女の強い目を思い出す。「やるべきことはやっていますから!」と言われているみたいだったから、頼みはしたが。 茜は腕時計を見つめる。時刻は、タイムシフトが終わる時間に差し掛かっていた。 「うーん。残念だけど、もう時間だわ。次のプログラムもあることだし、サインを送らないと……」 茜はmoment'sに報告するために、残念そうにブレザーを着て、腰を上げる。 ……そのとき! 「あっ!」 隼人が急に立ち上がって指を差す。 「車が来た!」 車は茜たちの目の前に止まる。 そして、中から出てくるのは、小柄で、ふわふわとした長い髪、おしとやかでお嬢様のような雰囲気をもつ女子学生。 「まさか……」 茜は上履きのまま、彼女の下へと走っていった。 ※※※ 「――というわけでね……」 「みちる、はやくやってよー」 「いつまでMCをやってんだよ! もう時間ねーぞ!」 「うっ……」 ネオのために、みちるがMCをやって粘っていたが、限界のようだ。タイムシフト上、あと少しで自分たちのパフォーマンスも終わる。だというのに、この目的を知らない学生からしてみれば、苛立ちが募るばかりだ。それだけ、自分たちの曲に期待する人たちが増えている証拠ではあるが……。 「そうだね、ゴメン。じゃあ、ネオ」 寂しそうな表情を浮かべるネオの下に、みちるがやってくる。タイムリミットだ。ネオの方をポンと叩き、首を左右に振る。 ネオはコクン、と小さく頷く。 「うん。それじゃあ、用意したとっておきの新曲を――」 その時だった。 「……!」 ネオは、目を見開いて遠くの出入り口を見つめる。どこかで見たことがあるそのふわふわとしたその長い髪、それはまさに……、 「み、お……」 ――彼女しかいない! わたしの、唯一無二(ゆいいつむに)の親友。 彼女は、ゆっくりとネオたちのいるステージのへと向かって歩いてくる。その隣にいる実行委員長の大山茜が目配せしながら親指を立てる。 そして、その後ろには実緒の母が……。 「……」 実緒の少し青ざめた顔が、人と接することが怖いと訴えかけているように、ネオには見えた。 準備は整った。その心を、少しでも和らげないと! ネオは遠くにいる彼女の方へ目線を向け、 「お待たせしてゴメン! よーし、役者も揃ったことだし、今から最後の――moment'sとっておきのオリジナル新曲をやっちゃうわよ―――――っ!!!!」 右手を突き上げて、宣言する。 歓声の渦の中、たった一人の女の子を凝視しながら、ネオは真剣な目つきで学生たちを見つめる。そんなネオの雰囲気にのまれた学生たちは、静かに彼女の方へと顔を向ける。 「これは……みんなにも、そしてわたしにもありえることだけど……人は誰しも、悲しいときや傷ついたときに、ひとりになりたいことがあると思います。でも、わたしたちはひとりじゃない。見守ってくれる人が必ずどこかにいる。たとえ距離が離れていても、見えなくても、背中を支えているはずだよ。ひとりでも、誰かが見守っているからこそ、苦しい事を乗り越えることができるし、夢だって追いかけられるはず。手を取り合って、乗り越えて、それぞれの道へ進めるはずだよ。そんな想いを、歌詞に込めました。これは、大切な人がいる全ての人――最大の勇気を出してここに来てくれた、わたしの親友に捧げる、大切な曲です」 涙をこらえながら力強く訴えるネオ。震える口から、自分の気持ちの全てを言い尽くし、 「聴いてください。moonlight(ムーンライト)」 始まりの合図を告げる。 その瞬間、ステージのライトが、ネオだけを照らす。まるで、月から見守る聖女のようだ。 その聖女を、実緒は見つめる。 優しくて、力強いギターの音が鳴り響く。 |
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