<第7話(1)のつづきから>
フリッツ、襲ってくる2体のスライムに向かって、紅く煌めく剣を両手で持ち、
フリッツ「燃え盛れ! 壁炎衝(へきえんしょう)!」
フリッツ、剣を地面に叩きつけて地を這う炎の壁を2体のスライムたちにぶつける。
2体のスライム、炎の壁をぶつかり吹き飛ばされるも、フリッツに向かってくる。
フリッツ「これ以上は分裂はしないが、本体を攻撃しないと不死身ってわけか……エイジ、ブリーゼ、スライムを引きつけつつ、少しずつ後方へ下がるぞ!」
フリッツ、スライムに攻撃しながら、後方に下がっていく。
ブリーゼ「しょうがないわね。嵐転(らんてん)!」
ブリーゼ、左足を軸に勢いよく回し蹴りをする。そこから小さな竜巻が現れ、2体のス
ライムを巻き込み、それが後方に下がるブリーゼの方へとひきつける。
エイジ「くっ!」
エイジ、スライムの攻撃をバックステップで回避しながらじわりじわりと下がっていく。
エイジたちの動きをしゃがんだ姿勢でずっと見つめるメルヴィン。
メルヴィンの合図を、彼の後ろで固唾(かたず)を呑んで待つエミリー。
エミリー、冷や汗を垂らしながら目を瞑り、小声で、
エミリー「できる……私はできる……ちゃんと役に立って見せる。信じる道に先はある」
メルヴィン「嬢ちゃん、行くぞ!」
エミリー「は、はい!」
勢いよく走るエミリー。
エミリー(モノローグ)「できる、私はできる!」
エミリー、メルヴィンの背中を踏み切り替わりにし、勢いよく垂直に飛ぶ。
地面に巨大なクラゲ型の影があるのを確認する。
空中で一回転して、バトンを持っている右手を引くエミリー。
エミリー「はああああっ! ライト、」
スライムを相手しながら空中にいるエミリーを見やり、驚くエイジたち。
エミリーのバトンに白い輝きが宿る。
エミリー「ウェ――――ブ!!!」
エミリー、空中でバトンを突きだし、地面にあるクラゲ型の影に向かって巨大な白い光線が発射する。
白い光線の影響でエイジたちやスライムも白色に包まれる。
白い光線は、地面に描かれたクラゲ型の影に命中する。その影響で、エイジ、ブリーゼ、フリッツたちが引きつけていた6体のスライムが闇子(サタン)の粒子となって四散する。
エイジ・ブリーゼ・フリッツ「!」
地面から弱々しくなったクラゲ型の魔物が現れる。全身薄紫色に光っている。
フリッツ「よし! エイジ、仕上げだ!」
エイジ「は、はい!」
右側で、少し離れた所にいるフリッツの掛け声に反応し、クラゲ型の魔物に向かって左手に装備しているステルラグローブの手の甲の部分にある鉱石を向けるエイジ。
エイジ「はああああっ! 鎮めぇ―――――っ!!」
エイジのステルラグローブの手の甲にある鉱石から青白い光が照らされる。
クラゲ型の魔物、青白い光を浴びて、粒子となって消えていく。
エイジ「ふう……」
エイジ、ほっとしてその場に座り込む。
右手に持っていた剣が朱い粒子となって消える。
フリッツ「やったな」
ブリーゼ「滅(ルート)、完了(アウト)ね」
エイジのところにフリッツ(右側)、ブリーゼ(左側)が立っている。
フリッツは笑っており、ブリーゼは無表情。
見上げて微笑むエイジ。
エミリー「エイジ!」
後ろから歩いてくるエミリーに顔を向けるエイジ、ブリーゼ、フリッツ。
エイジ「エミー」
エミリー、不安そうに、
エミリー「わたし、役に立った?」
エイジ、一瞬固まるが、笑顔で、
エイジ「ああ、サンキュー」
エイジ、エミリーに向かって右手を突きだす。
エミリー、意味が分からず首を傾げるが、満面の笑みで、
エミリー「うん!」
エミリー、左手を突きだし、エイジの右手に軽く当てる。
メルヴィン「いててて……」
後ろから腰を擦りながら、メルヴィンがエイジたちの下へ来る。
フリッツ「お! どうしたメル?」
メルヴィン「嬢ちゃん……あんたの靴、もしかしてヒールか?」
エミリー「あ……」
口を大きく開けたまま固まるエミリー。履いている靴――赤いヒールを確認する。
エミリー、顔を赤らめて、恥ずかしそうに、
エミリー「ご、ごめんなさい」
エイジ・フリッツ「あははははは」
声をあげて笑うエイジとフリッツ。
黒フードの女A(声のみ)「少しはやるようだな」
どこからともなく聞こえる声に、エイジたち5人の顔がこわばる。
エイジ、立ち上がる。
黒フードの女B(声のみ)「キャハハハハッ! そうこなくっちゃ面白くないよー」
黒フードの女A(声のみ)「ぎりぎり及第点(きゅうだいてん)だがな。ふふふ」
エイジ、辺りを見回しながら、
エイジ「なんなんだよおまえら! 隠れてないでとっとと出てきやがれ!」
黒フードの女A(声のみ)「沸点の低いヤツだな。言われなくてもそのつもりだ」
エイジたちの目の前に、黒い靄が現れる。そこから背の高い黒フードの女A、左側に身長の低い黒フードの女Bが現れる。
黒フードの女B「キャハハハッ! 参上ってね!」
黒フードの女A「ふふふ」
エイジ、黒フードの女A・Bを睨みつける。
エイジ「やっとお出ましか。なんでこんなことをしやがった!?」
黒フードの女A「そうカッカとくるな。パーティーが興ざめしてしまうではないか。今日はご挨拶に来ただけ、さ」
ブリーゼ「その割にはずいぶんと悪趣味ね」
フリッツ「俺たちを試しているみてぇじゃねぇか」
黒フードの女A「ふっ、我らにとってはただの実験さ。この道具のな」
黒フードの女A、右手を少し挙げる。すると、黒フードの手の上に、禍々しい黒い水晶玉が現れる。
エイジ、慄きながら、
エイジ「なんだよ、それ」
黒フードの女A「世界を闇に染める魔導星書(グリモア)のようなものさ」
エイジ「はあ?」
意味が分からず、ぽかんとした顔になるエイジ。
ブリーゼ、呆れつつ、挑戦的な態度で、
ブリーゼ「魔導星書(グリモア)ねぇ……何? アンタたちは預言者なの? 古い人間だこと」
黒フードの女A「ふふふ。些か死語と化しているのは否めんな。だが、これから始まるのだ」
黒フードの女B「そうだ、そうだ! 始まるんだよ―――――っ!」
黒フードの女A「此度の2つの実験により、機は熟した!」
黒フードの女Aの右手にある黒い水晶玉が赤紫へと変色する。
黒フードの女A「世界の均衡は再び光から闇へと傾斜し、冥(めい)へと向かうのだ!」
水晶玉から一筋の赤紫の閃光が天に向かって放たれる。
エイジ「くっ!」
水晶玉から放たれる爆風に、両眼を閉じ、両腕を前にだして防御するエイジ。
爆風がおさまり、目を開くエイジ。
エイジ「なっ……!」
驚愕し、双眸を大きく見開くエイジ。
森や土、空、影星(エクリプス)の施設までも赤紫色へと変色している。
黒フードの女B「いえーい! 大成功だよー!」
黒フードの女Aの隣で嬉しそうにピースサインを出す黒フードの女B。
メルヴィン「おいおい、冗談じゃねーぞ」
変色した周囲を見回すメルヴィン。
フリッツ「お、おい! エミリー!」
エイジ・ブリーゼ・メルヴィン「!」
フリッツの声で、エミリーの方へと見やるエイジ、ブリーゼ、メルヴィン。
エミリー、しゃがんで身体をぶるぶると震わせる。
ブリーゼ、しゃがんで心配そうに背中を擦る。
エイジもしゃがんでエミリーの両肩に手を置き、心配そうに、
エイジ「どうしたんだよ、エミー、顔が青ざめてるぞ」
エミリー「この感覚……この恐怖……わたし、覚えてる」
エイジ「え?」
エイジ、目を丸くする。
エミリー、恐怖に怯えている顔で、
エミリー「これ……あのとき……フラワードームであったときと同じ……みんなを絶望の渦に……」
エイジ「!?」
エイジの脳裏に、フラワードームで闇魔(オスジオーネ)化したエミリーの姿が浮かぶ。
エミリー、両目から涙が溢れ、天を仰いだあと、
エミリー「このままだと……また……うわあああっ!」
絶叫した後、目を閉じ、気絶するエミリー。
ブリーゼ「エミリー!?」
エイジ「エミー!」
うつ伏せになって倒れようとするエミリーを抱えるブリーゼ。
エイジ、立ち上がり、黒フードの女の方へと振り向く。
黒フードの女A「ふふふふ……」
エイジ、眉間にしわを寄せ険しい表情で、
エイジ「まさか、あの時もおまえらが……」
黒フードの女A、口元を緩ませ、不敵な口調で、
黒フードの女A「ふふふふ……さあて、何のことかな?」
エイジ、歯を強く噛んだあと、
エイジ「ふざっけんなあああああああっ!!」
フリッツ「エイジ、よせ!」
エイジ、走りながら左手に装備しているステルラグローブの手の甲の部分にある鉱石を押し、右手に剣――フランベルジュを握り、黒フードの女A・Bの下へと走る。
エイジ「うおおおおおおおっ!!」
エイジ、ジャンプしてフードの女Aに斬りかかる。
フードの女A、空間から身の丈ほどある槍を取り出し、
黒フードの女A「フン!」
エイジの剣と黒フードの女Aの槍がぶつかり、赤紫の火花を散らす。
エイジ「くっ!」
黒フードの女A「ふっ、小者だな」
エイジ「何!?」
黒フードの女A「はああああっ!」
黒フードの女A、力任せに槍を振り抜き、エイジを吹き飛ばす。
エイジ「うわあああっ!!」
吹き飛ばされフリッツたちの方へと転がり、仰向けになって倒れる。
地面に刺さったエイジの剣が粒子となって消える。
エイジ「ううっ……」
フリッツ「エイジ!」
フリッツが弱々しくゆっくりと起き上がろうとするエイジを支え、黒フードの女AとBを見やる。
エイジも片目だけ開けて黒フードの女AとBを見やる。
黒フードの女B「あらあらぁー? たった一撃でやられるなんてザコすぎぃー。キャハハハハッ!」
哄笑(こうしょう)する黒フードの女B。
黒フードの女A、槍を振り、
黒フードの女A「天呪槍(ヒンメルシュラーク)を使うほどでもなかったな。さて……」
黒フードの女Aの右手に持っている槍が消える。
黒フードの女A、エイジたちに背を向け、右手を突きだす。
黒フードの女たちの前に、黒い渦を巻いたゲートが現れる。
フリッツ「待て!」
黒フードの女A、フリッツの方へと振り向き、
黒フードの女A「言っただろう、今日は挨拶をしにきただけだ。もっとも、今のおまえたちが束になって私に刃向っても、返り討ちにされるだけだがな」
フリッツ「くっ……」
悔しそうに見つめるフリッツ。
黒フードの女A「では、生きていればまた会おう。我らが組織“闇の信徒(ミノス)”が創りだす、冥へと落ちた現実(この)世界で」
黒フードの女B「あっはっはっは。まったねー」
黒フードの女B、両手を広げて左右に振る。
黒フードの女A・B、黒い渦を巻いたゲートの中に消えていく。
その場で佇む、メルヴィン、ブリーゼ、フリッツ。
エイジ、薄れていく意識の中、低い声で、
エイジ「ミノ、ス……」
静かに目を閉じ、気を失うエイジ。
〇ミザール国 全域
突然、街や自然が赤紫色に染まり、困惑する住民たち。
〇ミザール国 首都ヴァイトインゼル オルディネール島 紅天宮(こうてんきゅう)
ミザール国本土から少し離れた場所に自然に溢れる島がある。
テロップ「首都ヴァイトインゼル。オルディネール島」
山の麓には紅葉色に輝く宮殿――紅天宮(こうてんきゅう)がある。
〇ミザール国 首都ヴァイトインゼル オルディネール島 紅天宮(こうてんきゅう)2F 護星女(ルーラー)の部屋 バルコニー
バルコニーから護星女(ルーラー)が心配そうに赤紫色に染まっていく本土を見つめている。
護星女(ルーラー)「ミザールが、闇子(サタン)に汚染されていく……」
護星女(ルーラー)、祈るように両手を握り、目を閉じる。
<序章:希望となるために 了>
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