〇ミザール国 国際特秘遂行警備組織“影星(エクリプス)” ミザール支部 入口
ブラウンでストレートミディアムボブの髪型、胸元にはアメジストのネックレス、そして真っ赤なドレスを着ているエミリー・ミチヅキ(18)がいる。
エミリー、洗練とされた美しさを放ちながら、左手はステルラグローブを装備し、右手には真っ白いバトンを持って前に突きだしている。
スライムの中にいたエミリーの攻撃で、彼女の周囲に幾つもの塊となって弾ける藍色のスライム。
エミリーの容姿に、目を見張るエイジ・ハセガワ(18)と彼の左側にいるブリーゼ・オイサキ(28)。
エイジ「エミー……」
エミリーの姿に魅了され、立ち尽くすエイジ。
エイジたちの前に、まがまがしい紫色のオーラを纏うクラゲ型の魔物が、エイジ、ブリーゼ、エミリーの中心にいきなり現れる。
ブリーゼ、姿勢を戦闘態勢に切り替えて、
ブリーゼ「コイツは!」
エミリー「これがスライムの正体です! スライムの中にこの魔物がいました」
エイジ「こいつが!?」
クラゲ型の魔物、藍色の光を放つ。
エイジ「うわっ!」
思わず目を閉じるエイジたち。
クラゲ型の魔物、再び藍色のスライムへと変わる。
ブリーゼ「コイツを倒すには、本体を引っ張り出すしかなさそうね」
エイジ「鎧をはがすしかないってことか」
ブリーゼ「ええ。間髪入れずに攻撃するわよ! エミリー!」
エミリー「はい!」
ブリーゼ「さっきのように攻撃しなさい。仲間を助けるにはどのような攻撃方法がいいのか思い描いてみて。そしたら、武器も応えてくれるわ」
エミリー「わ、分かりました」
武器である真っ白いバトンを右手で強く握るエミリー。
エイジ「攻撃が来るぞ!」
藍色のスライム、プロペラの回転しながら垂直に飛ぶ。
スライムが地面に落下する瞬間、
ブリーゼ「飛んで!」
垂直に飛び、着地したスライムが放つ藍色の衝撃波を回避するエイジたち。
スライムの衝撃波により、地面に生えている草が枯れてしまう。
ブリーゼ「一斉攻撃、行くわよ! はああああっ!」
ブリーゼ、空中から右足を振り抜き、スライムに向かって緑色の真空刃を3連続で放つ。
緑色の真空波がスライムに当たる。変形するスライム。
ブリーゼ「エイジ!」
エイジ「ああ!」
エイジ、空中で身体を捻り、
エイジ「くらえ、炎月(えんげつ)!」
エイジ、勢いよく剣を振って、炎の真空刃をスライムに放つ。
炎の刃が当たり、さらに変形するスライム。
エイジ「エミー!」
エミリー「う、うん!」
地上にいるエミリー、バトンを振り上げ、目をつぶり、祈るように、
エミリー(モノローグ)「お願い、さっきのように……!」
エミリー、目を開け、勢いよくバトンを振って、その先端をスライムの方へと向け、
エミリー「当たって! 光波(ライトウェーブ)!」
バトンの先端から、白い光の塊が現れ、巨大な光線となってスライムに直撃する。
スライム、エミリーの放つ光線に押し流され、後方にある木にぶつかる。爆発し、白い煙に包まれる。
エミリー「ふぅ……」
一息つくエミリー。
エイジ「エミー!」
エミリーの所へ駆け寄るエイジとブリーゼ。
エイジ「大丈夫か?」
エミリー「うん。なんとか」
ブリーゼ「これで殻が破ればいいけど」
白い煙に包まれているスライムを見やるブリーゼ。エイジとエミリーも見つめる。
白い煙が徐々に消えていく。
2体の藍色のスライムが現れる。
エイジ・ブリーゼ・エミリー「!?」
驚くエイジたち。
エイジ「今度は、分裂かよ……!」
2体のスライム、エイジたちに向かって飛び跳ね、襲い掛かる。
ブリーゼ「エミリー、アンタはここで待機していて」
エミリー「な、何でですか!?」
不満な表情をブリーゼに向けるエミリー。
ブリーゼ、冷たい表情でエミリーを見やり、
ブリーゼ「今のアンタでは、これ以上は足手まといだからよ」
エミリー「え……」
ブリーゼの冷たい表情と発言に、凍りつくエミリー。
ブリーゼ「エイジ! 二人で攻めるわよ!」
エイジ、エミリーを見やり、スライムの方へと顔を向け、
エイジ「わかった」
エイジ、ブリーゼの指示に頷き、彼女と共に2体のスライムに向かって走りだす。
エミリー「あ……」
エミリー、その場で立ち尽くす。
ブリーゼ「しつこい!」
ブリーゼ、右足に光子(マナ)の力を貯めて緑色に輝かせる。そして勢いよくスライムを蹴り、真っ二つにする。
するとスライムは2つに分裂したままブリーゼを襲う。
ブリーゼ「なっ!?」
二体のスライム、ブリーゼの両腕にくっつき、光子(マナ)を吸い取ろうとする。
ブリーゼ「くっ!」
ブリーゼ、素早く手を左右に振ってスライムを振り払う。
エイジ、襲い掛かってくるスライムに、
エイジ「はあああっ!」
必殺技、衝火(しょうか)による朱い剣戟(けんげき)で、スライムを吹き飛ばすエイジ。
スライム、上下に真っ二つになり、分裂する。
2体に分裂したスライム、エイジを襲う。
エイジ、なんとか2体のスライムをステップで回避する。
エイジ「くっ! どこに本体が……!」
剣を構え、相手にしている2体のスライムと対峙するエイジ。
後ろで戦っているエイジとブリーゼを見つめるエミリー。
エミリー(モノローグ)「戦えるようになったけど、あの二人のように、私には戦闘経験はない。迷惑をかけるのは当然。だけど」
エミリーの脳裏に、エイジとブリーゼがスライムにやられて、自分だけが生きている姿が浮かぶ。
エミリー「それだけは……嫌」
脳裏に浮かんだその悍ましさに、身体が震えるエミリー。
エミリー「私も役に立つんだから……」
エミリー、歯を食いしばり、バトンを強く握り、
エミリー「戦わなきゃ!」
エミリー、勢いよく走るが、
エミリー「きゃあ!」
赤いヒールの先が石に引っ掛かり、たたらを踏む。
エミリー「いててて……。そっか、私、ヒールを履いてたんだっけ……」
すると、ブリーゼの頭上を越えて、1体のスライムがエミリーに向かって飛び跳ねる。
エミリー「わぁぁっ!」
裏返った声を出すエミリー。
エイジ「!」
ブリーゼ「しまった!」
エミリーの方へと一瞥する、エイジとブリーゼ。
尻餅をついているエミリー。
そんな彼女の頭上から、襲い掛かるスライム。
思わず目を瞑るエミリー。
エイジ「うおおおおっ! 炎月(えんげつ)ぅ―――っ!!!」
エイジ、勢いよく剣を振り払い、炎の真空刃を放つ。
炎の真空刃がスライムを吹き飛ばし、施設の壁にぶつける。
エミリー、ゆっくりと目を開ける。エイジの方へと顔を向ける。
エイジ、憤怒の表情のまま、ひと息つき、
エイジ「ウチの姫君に、手を出すんじゃねぇ……!」
エミリー「エイジ」
少し離れた場所にいるエイジを、ずっと見つめるエミリー。
ブリーゼ「エミリー、立ちなさい。ボケッとしてる暇はないわ!」
エミリー「!」
いつの間にか左隣にいるブリーゼが声をかける。
前方には4体、後方には2体と、計6体に分裂したスライムが一列に並んでいる。
ブリーゼ「囲まれてしまったわね」
エイジ「本物はどいつなんだよ。このままじゃあ……」
エイジ、左手に装備しているステルラグローブを見やる。
ステルラグローブの手の甲の部分にある鉱石の色は、黒ずんだ朱色となっている。
ブリーゼの左手に装備しているステルラグローブの鉱石も、黒ずんだ緑色となっている。
ブリーゼ「まずいわね」
汗をぬぐうブリーゼ。
6体のスライムは、一斉にエイジたちに向かって飛び跳ねる。
フリッツ(声のみ)「おー、おー、こっちは大変なコトになってんなぁ」
メルヴィン(声のみ)「手ぇ貸してやるぜぇ」
エイジ・エミリー「!」
ブリーゼ「この声は!」
後方にいる2体のスライムの、さらに後方から赤い閃光が迸り、爆発とともに2体のスライムが4体のスライムたちがいる場所まで吹き飛ばされる。
目にも見えないスピードでエイジたちの前に、フリッツ・エダサワ(33)が現れる。
フリッツ、右手に剣を持ち、左腕を横に伸ばし、親指を突き立て、エイジたちの方へ顔を向け、
フリッツ「待たせたな!」
エイジ「フリッツさん!」
エイジたちの周囲に、聡明な3本の青い矢が突き立てられている。
3本の青い矢から青い曲線が描かれ、矢と矢が結ばれ、エイジたちを包む一つの大きな円となる。
円から現れた青い光が、空へと向かって走る。
エイジたちがスライムから受けた傷が癒される。
エイジとブリーゼのステルラグローブの鉱石が輝きを取り戻す。
エイジ「な、なんだ、これ、力がみなぎる」
ブリーゼ「この技は……!」
メルヴィン「ふあーあ。かったるいなぁー、ほんと」
後ろへと振り向くブリーゼ。すると、あくびをしながら左肩を回す、白衣を着ている男――メルヴィン・シバサキ(32)がゆっくりとエイジたちの方へと歩いてくる。
メルヴィン、右手に弓を持っている。
ブリーゼ「メルヴィン!」
エイジとエミリーもメルヴィンの方へと振り向く。
メルヴィン「大海の恵(カーム・オーシャン)。どうだ。少しは癒されただろ?」
ふてぶてしい態度で、笑みをこぼすメルヴィン。
ブリーゼ、少しだけ笑みを浮かべ、
ブリーゼ「余計な真似を」
メルヴィン「へっ、軽口を叩けるなら上等だ」
フリッツ「いざというときの準備をしていたもんだからよ、ちょっと時間をかけちまった。それはそうとこの状況は……」
フリッツ、6体のスライムを見つめる。
エイジ、フリッツの左隣に立ち、
エイジ「はい。こいつらは、人魔(アロー)化したスライムたちです。中に本体がいるのは分かったんですが」
フリッツの右隣にはブリーゼがいる。
ブリーゼ「その本体がどこにいるかが」
フリッツ「なるほどな。闇雲に当たっても無駄ってことか。メル、おまえならどう考える?」
メルヴィン、フリッツの後ろに立ち、
メルヴィン「んー……」
スライムたちをしばらくじっと見つめるメルヴィン。
メルヴィン「なるほど、な」
ブリーゼ「何か分かったの?」
メルヴィン「ああ。エイジ、ブリーゼ、今いる敵が目の前にいるヤツだけだと思っていたんじゃあ、まだまだ青いぜぇ」
フリッツ「さっすが《透し眼(ガンマ・グルイス)》だな」
メルヴィン「うっ、だからその肩書きで呼ぶなって」
メルヴィン、照れくさそうに咳払いをして、
メルヴィン「考えてみろ。俺たちが生きている世界はぁ、一体何次元なんだ?」
ブリーゼ「それは愚問だわ。三次元でしょ」
メルヴィン「だから?」
エイジ、左手をおとがいに当て、
エイジ「だから? だから、えーと、えーと……ああっ!」
エイジ、目を大きく見開き、メルヴィンの方へと顔を向け、
エイジ「まさか、地面……?」
左手の人差し指を地面に向けるエイジ。
メルヴィン「そっ、あいつら、何かを守るように並んでいるみてぇじゃねぇか?」
エイジ「そういえば、今までの行動も、俺たちを何かから遠ざけるように」
メルヴィン「まっ、そりゃあ確かめれば分かるってもんさ」
メルヴィン、弓を構える。青い矢が現れ、空に狙いを定め、
メルヴィン「滝針(フォールスピア)!」
青い矢が弧を描き、それが滝のような水流へと変化し、6体のスライムの後方に向かっていく。
6体のスライムたちが合体する。
エイジ「あっ!」
スライム、矢を受け止め、軟体の身体を駆使して水流をはじく。
メルヴィン、呆れたように、
メルヴィン「ほらな。これで作戦は決まったもんだろ、支部長」
フリッツ「サンキュー。エイジ、ブリーゼ。オレと一緒にスライムの動きを引き付けてくれ」
エイジ「了解です」
ブリーゼ「フッ」
ブリーゼ、右の人差し指でサングラスのブリッジを上げる。
フリッツ「メルヴィン、頼むぞ」
メルヴィン「あいよ」
左手を左右に振るメルヴィン。
エイジ、ブリーゼ、フリッツ、一斉にスライムの方へと向かう。
それぞれ2体ずつ相手にし、各々が持てる技を駆使して、スライムたちを自分たちに引き付ける。
エミリー「……」
メルヴィンの後姿を見つめるエミリー。
メルヴィン「気にすんな」
エミリー「えっ?」
メルヴィン「言われたんだろ、ブリーゼに。足でまといって」
エミリー「あ……」
メルヴィン、後ろにいるエミリーの方へ顔を向け、苦笑を浮かべ。
メルヴィン「ブリーゼはな、言葉は辛辣(しんらつ)だが、その中には隠れた優しさがあんだ。辛口すぎてなかなか理解できねぇけどな。へへっ、まったく不器用すぎんぜ」
戦っているブリーゼを見つめるメルヴィンとエミリー。
メルヴィン「とはいえ、嬢ちゃんもここで引き下がるわけにはいかねぇだろ? 手前の立ち位置を証明したいんだろ?」
エミリー、少し間を置いて、真剣な双眸で、
エミリー「はい」
メルヴィン「フ……なら、手伝ってやるぜ。よいしょっと」
突然しゃがむメルヴィン。
エミリー「え?」
メルヴィン「俺がアイツらの戦況を読んでスキを伺うから、嬢ちゃんは俺の合図で俺を踏み台にして跳べ。そこから影が見えるはずだから、そこにありったけの光子(マナ)を込めた攻撃をするんだ。今の嬢ちゃんなら、できるだろ?」
エミリー、黙ったまましゃがんでいるメルヴィン、そして、2体ずつ相手をしているエイジを見つめる。
そして、メルヴィンに向かって、
エミリー「任せて下さい」
メルヴィン「りょーかい」
メルヴィン、スライムたちと戦っているエイジ、ブリーゼ、フリッツの戦況を見つめる。
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