新・永山あゆむの小さな工房 タイトル

永山あゆむの小説・シナリオ創作ホームページです。

Scene1-1
<登場人物>


・麻倉音緒(17)あさくらねお。主人公。同好会バンド『moment's』のリーダー。女性。高校二年生。

・舞永朱莉(17)まいながあかり。音緒の友人。女性。高校二年生。
・七瀬楓華(17)ななせふうか。音緒の友人。女性。高校二年生。
・竹下実緒(16)たけしたみお。音緒の友人でクラスメイト。女性。高校二年生。





○音緒の家1F キッチン

 キッチンでバレンタインデーのチョコレートを作っている音緒、朱莉、楓華(ふうか)、実緒。
 音緒は縦縞の入ったジャージを着ている。他の3名は外行きの服を着ている。
 音緒、溶かしたチョコレートを型に流す作業をしている。緊張して腕が震えている。

音緒「……うーっ」

 朱莉、音緒の手つきに緊張した声音で、

朱莉「……いいよ、ネオ。そのまま、そのままチョコレートを型に流すのよ」

音緒「わかってる! 集中しているから話しかけないで!」

実緒「ネオちゃん、がんばって」

楓華「ファイト!」

 実緒、楓華、祈るような気持ちで音緒を見守る。
 音緒、慎重に、

音緒「あと少し、あと少し……」

 音緒、ゆっくりと溶かしたチョコレートを型に流す。

 【SE】型に流す音。

 数分後、

音緒「……で、できたあ―――っ!」

朱莉「ふううっ。相変わらず、慣れないことには緊張すんのね。おかげでこっちまで緊張したよ」

楓華「うん。思わず手を強く握っちゃった」

音緒「苦手なんだからしょーがないじゃん。あー、手がビリビリする」

実緒「おつかれさま」

音緒「ありがと、実緒。これでやっとひと段落ね」

朱莉「いーや、これはまだまだ序の口よ。チョコを固めて、渡して、気持ちを伝える。そこがゴールなんだから」

音緒「はいはい。じゃあ、冷凍庫に」

楓華「そうね。入れましょ」

 チョコレートを冷凍庫の中に入れる。

 【SE】冷凍庫を開ける音。
 【SE】冷凍庫を閉める音。



○ネオの家1F リビング


 テレビがついている。
 音緒、背を伸ばしながら、

音緒「う――んっと! あー疲れたーーっ」

 朱莉、あきれた口調で、

朱莉「音緒、なんか、じじくさいよ」

ネオ「ほっといてよ。いいから早く座ろうよ」

 音緒の隣には実緒。実緒の向かい側には楓華。楓華の隣には朱莉が座る。

実緒「音緒ちゃんって、お菓子作りや料理はしないの?」

音緒「やってみたいんだけど、音楽のことで精いっぱいだから。それに、小学生のときのトラウマがあって……」

朱莉「あー、家庭科の授業で火加減間違えて、あやうく火事になりかけた、あの事件?」

楓華「火力を最大にしっぱなしだったから、『音緒火事いっぱーい』と言われたあの……」

 音緒、朱莉と楓華に向かって指をさし、

音緒「そこ! 思い出さないの! と、とにかく、今はバンドのためにやることがいっぱいあるからできないの! できないったらできないの!」

楓華「やけくそ感出しすぎよ」

実緒「あははは……」

朱莉「音緒が筋金入りの音楽バカだってことはみんな分かってるからねー」

楓華「そうね」

音緒「な、なんかバカにされてる気が」

朱莉「夢中なものがあるのはいいってことよ」

楓華「でも音緒ちゃん、将来、料理の一つができないと、お嫁に行ったときに困るよ」

音緒「そのときは旦那に作らせてやるわ。絶対服従よ! ふんっ!」

 立ち上がり、威張った態度をとる音緒。
 実緒、慄き、

実緒「さ、さすが音緒ちゃん……」

朱莉「はあ……まあ料理はいいんだけどさ、それよりもそれよりもさ……」

音緒「ん?」

 朱莉、音緒に指をさして、

朱莉「音緒、あんたのその服は、いっっっっったいどーゆーことなのよ!?」

音緒「別に怒ることないでしょ」

朱莉「客人が来ているのに上下ジャージってのが問題なのよっ! なんでアタシが指南した服を着ないわけ!?」

実緒「確かに、上下ジャージっていうのも」

楓華「ヤンキーそのものね」

朱莉「楓ちゃんの言う通りよ。清く、正しく、美しく! 身だしなみは女性の品格を表すってもんよ!」

 朱莉、実緒に指をさし、

朱莉「みおっちを見なさい! 真っ白なふわふわのセーターに、ピンクのチェックスカート! そして、すべすべの白い肌と長い髪、こんな天使のみたいな子を……」

 朱莉、実緒に近づき、実緒を抱きしめる。

 【SE】抱きしめる音。

 実緒、びっくりした声音で、

実緒「あ、朱莉ちゃん!?」

朱莉「抱きしめる以外なにがあるってのよー!!! もぉー、かわいすぎっ!」

音緒「あのー、もしもーし」

 実緒、苦しそうに、

実緒「あ、あかりちゃん、く、くるしい」

朱莉「あー、みおっちのお母さん、アタシにもこんな服をデザインしてほしいなー」

 実緒、精いっぱいの大きな声で、

実緒「あかりちゃんっ!!」

 朱莉、我に返ったように、

朱莉「あ、ごめんごめん、つい」

楓華「相変わらずなんだから」

音緒「ほんと、ファッションバカというか」

朱莉「音緒、何か言った?」

音緒「べっつにー」

朱莉「いーい? 明日のバレンタインはねーファッションから始まってんのよ!」

音緒「まーたはじまった」

 楓華、小声で、

楓華「止められないからおとなしく聞きましょ」

朱莉「魅力的な服装で男を魅了し、チョコを渡して、気持ちを伝えて、射止める! いわばこれは女の戦争! ウーマンズウォーなのよ!!」

 【SE】爆発音。

実緒「お、女の戦争って、大げさだよ」

朱莉「甘いわ、みおっち!」

 実緒に指をさす朱莉。

朱莉「アタシはいたって大真面目よ! バレンタインデーはね、一年に一度の大チャンスなのよ! このワンチャンを逃したら、気持ちを伝えることなんて早々ないわっ! ここで告白できない意志薄弱(いしはくじゃく)なヤツは、恋愛に挑戦する資格はな―――――いっ!」

 【SE】爆発音。

 音緒、さっぱりわからない様子で、

音緒「い、いし、はくじゃくぅ??」

楓華「意志が弱くて決断することができない人のことよ。音緒ちゃん的に言えば、弱虫ってことね」

音緒「なるほど、納得」

朱莉「勝負しなくてどーすんのよ! いつ伝えるか? バレンタインデーでしょってね――――っ!」

 【SE】爆発音。

 苦笑を浮かべる音緒、楓華、実緒。

音緒「あかりん、熱い、火傷しそうだよ。そして言葉が古い」

 熱そうなポーズをとる音緒。
 実緒、苦笑を浮かべながら、

実緒「あ、あかりちゃんは誰に渡すの?」

朱莉「みおっち、よくぞ聞いてくれた!」

音緒「どうせ演劇部にいる不愛想男……フガフガ」

 音緒の口をふさぐ楓華。

楓華「中須くんでしょ」

朱莉「ご名答! 明日は絶対に、ぜぇーったいに、いとしーいとしーそうちゃんに、アタシの愛のこもったチョコレートを渡すんだから! そして、そして、そのあとは、(明日のことを妄想して)……にゃっはは〜ん!!!」

 【SE】キラキラの音。



 (※Scene1-2につづく)

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