新・永山あゆむの小さな工房 タイトル

永山あゆむの小説・シナリオ創作ホームページです。

Scene1-2
<登場人物>


・麻倉音緒(17)あさくらねお。主人公。同好会バンド『moment's』のリーダー。女性。高校二年生。

・舞永朱莉(17)まいながあかり。音緒の友人。女性。高校二年生。
・七瀬楓華(17)ななせふうか。音緒の友人。女性。高校二年生。
・竹下実緒(16)たけしたみお。音緒の友人でクラスメイト。女性。高校二年生。





○音緒の家1F リビング

 (※Scene1-1からの続き)

 幸せ妄想オーラ全開の朱莉。リビング中を動き回る。
 呆然と見つめる音緒、楓華、実緒。
 音緒、何とも言えない表情で、

音緒「あかりん、暴走しすぎ」

楓華「完全に自分の世界に入ったわね」

実緒「朱莉ちゃん……」

音緒「わたしがいうのもなんだけどさ、中須もよくあかりんと仲良くなったよね……」

楓華「うん。真面目で寡黙だし」

音緒「わたしでさえ、初めて会ったときにそりが合わないと思ったのに。ふてぶてしくてさ、ほんと」

実緒「中須くんの魅力が別のところにあるんだよ、きっと」

音緒「まーね。ところで話変わるけど、楓ちゃんは誰に渡すの?」

楓華「え? 私?」

音緒「そうだよ。珍しいじゃん、楓ちゃんが誰かに渡すのって」

楓華「そ、そう?」

実緒「たくさん作っていたよね」

朱莉「なになに? 今度は楓ちゃん?」

 音緒、朱莉に驚いて、

音緒「うわっ! もう帰ってきたの?」

朱莉「なによーアタシはここにいるわよ」

音緒「いや、そうじゃなくて……」

楓華「うん。ソフトテニス部のみんなに渡すの」

実緒「そうなんだ」

音緒「楓ちゃんはやっぱり真面目ねー」

 楓華、照れくさそうに、

楓華「た、たまには、感謝の気持ちをね、伝えなきゃ、って思ったから……」

音緒「ひとつ大きなチョコレートも作ってたけど、あれは家族に?」

楓華「うん。お父さんに渡すの」

朱莉「お父さん?」

 楓華を凝視する朱莉。

楓華「そ、そうよ。私、彼氏なんていないし」

 【SE】光る音。

朱莉「楓ちゃん、アタシの目は誤魔化せないわよ!」

音緒「でたよ、あかりんの恋愛千里眼。通称、ラビング・アイが」

実緒「な、なんかカッコイイ」

朱莉「同じ学年で、夏に引っ越した男子がいたでしょ? ほら、ソフトテニス部にいた」

音緒「ああ、一之瀬?」

朱莉「そうそう、一之瀬翔(いちのせしょう)くん。学年トップクラスのイケメンと良い雰囲気だったじゃん。たまに一緒に帰ってることもあったし」

 楓華、照れくさそうに、

楓華「あ、あれは、たまたまよ。終わるタイミングが、一緒だっただけだし。家も近くだったから。それに、テニスのことばかり話していたし。私のことも友達としか、思ってなかったから」

朱莉「ふーん、お隣にいるテニスバカと似ているねー」

 音緒を見つめる朱莉。
 音緒、そっぽを向いて、

音緒「知らないわよ」

実緒「LINEでやり取りはしていないの」

楓華「うん、知らない」

朱莉「気になる男子も?」

楓華「うん。私、彼氏ができるなんで想像もつかないし、地味だし……」

朱莉「そんなことないわよ! ていうか、楓ちゃんは男性への魅力がたっっっぷり詰まっているじゃない。部活も勉強もきちんと両立できて、アタシたちの中で一番背が高いし、それにそれに」

 朱莉、楓華の胸を触る。

楓華「ちょっ、朱莉ちゃん!?」

朱莉「魅力的な胸があるんだから、見せつけていかなきゃ!! うーん、やわらかい!」

音緒「うん、野郎相手には大きな武器だよね」

 実緒、自分の胸を見て、

実緒「うん。うらやましい」

楓華「二人とも、なに納得しているの! 朱莉ちゃん、もうやめてってば」

朱莉「はあーあ、アタシもこれぐらい魅力的になったらなー、ほんと」

楓華「朱莉ちゃん!」

朱莉「ご、ごめん」

 慌てて楓華から離れる朱莉。

楓華「もう」

 楓華、メガネのフリッジを上げる。

朱莉「じゃあさ、何ならアタシがコーディネートしてあげよっか? 男性諸君が目を輝かせるくらいのど派手なものにして、雰囲気を180度変えて……」

 楓華、笑みを浮かべながら、

楓華「けっこうよ」

 朱莉、楓華が怒っていることを理解し、

朱莉「すみません」

音緒「あははは、ばちがあったってやんの」

 朱莉の背中をたたく音緒。

朱莉「うるさーいっ!」

音緒「あははは!」

 じゃれあう音緒と朱莉。

実緒「ははは……」

 苦笑いを浮かべる実緒。
 実緒、楓華のほうへ顔を向ける。
 楓華、顔を下に向けて、思いつめたような仕草で、

楓華「……」

実緒「楓華ちゃん?」

楓華「あ、いや、なんでも、ない」

実緒「……?」

 首をかしげる実緒。

楓華「そ、それよりも、実緒ちゃんもたくさんチョコ作ってたよね」

実緒「うん、楓華ちゃんと同じだよ」

音緒「今度は実緒の話?」

朱莉「え? みおっち、愛人がたくさんいるの!?」

実緒「どこからそんな話になるの!?」

音緒「実緒も真面目だから、あれでしょ、美術部のみんなに」

実緒「うん。部長として何かできないかなと思って」

音緒「じゃあ、アイツにも渡すの?」

朱莉「あいつって?」

 音緒、少し不機嫌そうに

音緒「向井よ、向井亮介」

朱莉「あー、みおっちに嫌がらせをしてた?」

音緒「そ、そのゴミクズ向井」

楓華「ひどい言い様ね」

音緒「だってわたしにとっては天敵そのものだもん。まあ、あの事件のあと、わたしや実緒に謝って、認められるように頑張ってはいるけどさー」

実緒「音緒ちゃん」

朱莉「実際のところはどうなの。もう意地悪はされていない?」

実緒「うん。ほめたら上目になるのは相変わらずだけど」

楓華「それ、照れているだけじゃない?」

朱莉「おお、楓ちゃんからの鋭い突っ込み!」

音緒「そっか。ならいいんだけど……ということは、アイツにも渡すの?」

 実緒、うなずき、

実緒「もちろん、渡すよ。日頃、お世話になりっぱなしだから」

 笑みを見せる実緒。
 朱莉、おどけて、

朱莉「ほっほお、天敵だった奴にお世話になりっぱなしですか。昨日の敵は今日の味方ってことですね、音緒さん?」

ネオ「ええ、朱莉さん。関係が修復して、まさかここまでの関係になっていたなんて」

楓華「なにセレブってんの……」

 実緒、必死に、

実緒「ち、ちがうよ!」

朱莉「ほっほう、全力で否定ですか。ますます、あ・や・し・い」

 実緒、少しヤケになって、

実緒「ほ、ほんとだよ! 『勘違いしないでよね。ぼくが竹下さんと付き合うのは、あくまで美術だけだからね!』って言われたもん!」

音緒「でも、アイツも男ですから。そう言いつつ、裏でどう思っているとお考えですか、朱莉さん?」

朱莉「ええ、音緒さん、きっと一人で、打ち上げ花火のように、ドーンと何度も飛び上がって、皮肉なキャラが崩壊して――」

実緒「二人とも! 向井君を変な方向へ持っていくのはやめて! はい、この話はもうおしまい!」

音緒「あぁー、ゴーインに終わらせないでー」

 実緒、やけくそになって、

実緒「さ、最後は音緒ちゃんよ!」

楓華「ゴーインに仕切ったわね」

音緒「わたしも言わなきゃいけないの!?」

 音緒、ドキッとして慌てたように、

音緒「ええっ、わたしも!?」

朱莉「当たり前でしょ。というか、ここに呼んだ当事者が言わないで何になるの?」

楓華「ええ。最初から逃げ場なんてないわよ」

実緒「私たちだって言ったんだから、音緒ちゃんに拒否権はないよ」

朱莉「そうだそうだ! たい、料理が苦手な人が、アタシたちを呼んでまでチョコレートを作る? それなら、デパートで買えばいいじゃない!」

 音緒の顔を覗く、朱莉、楓華、実緒。

音緒「うう……」

 音緒、そっぽを向き、恥ずかしそうに、

音緒「べ、別にいいじゃない、そんなこと。バンドのメンバーに、少しは感謝という印をね……作ってみたいときだって、わたしにはあるんだから」

朱莉「あるんだからぁ?」

音緒「そ、そうよ。女の子っぽいことをしたいことだって」

実緒「なかなかしないって言ったのに?」

音緒「う……」

楓華「言っていることが矛盾しているわね」

朱莉「観念しなさいよ、音緒。アタシ、みっちゃんから聞いているんだから。最近、音緒がひとりで帰るって」

楓華「長里さん、かわいそう」

朱莉「親友と帰らず、何をしているわけ?」

音緒「別に何もないわよ。ライブも近いからカラオケに行って練習したりしているだけよ。わたしにも、ひとりで帰る事情だってあるわよ」

 朱莉、怪訝な表情で、

朱莉「ふーん、ひとカラねぇ。ライブが近いからとは言え、騒ぐのが好きなあんたがねぇ」

楓華「あやしさ満点ね」

実緒「うん。音緒ちゃんらしくない」

音緒「そ、そんな言ったって、な、なにも出てこないんだから」

朱莉「また、それ。何かが起こると、すぐによそよそしい行動を取るんだから。音緒、単刀直入に聞くけど……彼氏、できたの?」

実緒「えっ?」

音緒「ば、バカね。そんなの、いるわけないじゃん」

朱莉「ふーん。だったら、まさか、まさかとは思うんだけど、同じクラスなんだよね、お隣に住んでいるあいつとは」

音緒「アイツって……優太のこと? そうだけど。それが?」

朱莉「小倉への恋心が、また芽生えたんじゃないの?」

実緒(心の声)「あ……」

朱莉「最近、テニスで地区予選を優勝して県大会出場したりと、活躍してんじゃん。ねー、楓ちゃん」

楓華「そうね。同じ部活のライバルとして、ちょっとむかつくけど」

実緒「楓華ちゃん、顔、笑ってないよ」

朱莉「楓ちゃん……ごめん」

 音緒、ため息をつき、呆れたように、

音緒「それこそ的外れだってば。テニスで活躍したって、あんな弱虫アホ優太なんか、わたしの相手にふさわしい度0パーセントよ。わたしはね、家族と、同好会の男どもに渡すだけよ。本当にそれだけなんだから、いいでしょ、もう! フンだ!」

 音緒、その場から立ち去り、階段を上って自分の部屋へと向かう。

 【SE】走って階段を上る音。

朱莉「あー、まーた始まった。いつもすねるとこうなんだから。分かったよネオ。アタシが悪かった。ていうか、ここはネオの家よー」

 朱莉、音緒を追いかける。

 【SE】走る音。

楓華「やれやれね」

実緒「あ、あははは……」

 実緒、顔を下に向けて、

実緒(心の声)「やっぱり、そうなのかな?」



○音緒の家2F ベランダ (夜)

 ベランダの扉を開ける音緒。
 パジャマを着の上にちゃんちゃんこを重ね着している。
 冷たい風が吹く。

 【SE】風の音。

音緒「うう、寒いな……今日は三日月か」

 三日月を見つめる音緒。
 隣の家――小倉優太(17)の家のベランダを見つめる音緒。
 部屋の電気――優太の部屋の電気がついている。
 寂しそうに優太の部屋を見つめる音緒。
 数秒後、音緒、我に返り、

音緒(心の声)「ちがうちがう! 好きとかそういうのじゃなくて、ただ、ずっといてほしいとか……ってこれも好きと同じじゃない!」

 首を必死に横に振る音緒。

音緒(心の声)「あーもう、とにかく。うだうだ考えずにすぐに渡して終わり! 幼馴染としてこれからも仲良くねっていう友情の証としてチョコを渡すだけなんだからね。わたしらしくいればいいのよ! 緊張するのはライブだけでいいの!」
 
 音緒、三日月を見つめて、

音緒「よし!」




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