新・永山あゆむの小さな工房 タイトル

永山あゆむの小説・シナリオ創作ホームページです。

Scene10
<登場人物>


・麻倉音緒(17)あさくらねお。主人公。女性。同好会バンド『moment's』のリーダー。高校二年生。

・小倉優太(17)おぐらゆうた。音緒の幼なじみでクラスメイト。男性。高校二年生。
・麻倉直美(45)あさくらなおみ。音緒の母親。女性。





○音緒の家2F 音緒の部屋(夜:部屋暗い)

 音緒の部屋。
 机の上に置いてあるデジタル時計は二一時になっている。
 電気を消しており、月明かりが差し込んでいる。
 パジャマを着ている音緒。

音緒「ううっ……」

 音緒、壁に背中をくっつけ、体育座りで涙ぐんでいる。

直美(声のみ)「音緒ーごはんよー」

 1Fから聞こえる直美の声。
 音緒、弱弱しく、

音緒「今日はいい……」

直美(声のみ)「もう! どうしちゃったのかしら……?」

 【SE】1Fのリビングの扉を閉める音。
 音緒、弱弱しく、

音緒「赤っ鼻になったこんな顔、誰にも見せたくないよ……こんなんじゃ、学校にも行けないよ……」
   
 音緒、ふさぎこむ。
 すると、音緒の隣に置いているスマホが光り、バイブレーションが鳴りつづける。
 スマホを見つめる音緒。

音緒「優太……?」

 電話のボタンを押し、耳にスマホを当てる音緒。

優太(電話)「あ、もしもし。よかった電話に出てくれて」

 音緒、弱弱しそうに、

音緒「なーに? わたし、今、人生でいちばん絶望にあふれた顔になってるんだけど?」

優太(電話)「今、家?」

音緒「うん……」

優太(電話)「久しぶりにベランダで見ねえか? 月」

音緒「今、そんな気分じゃない……」

優太(電話)「まあ、そう言わずにさ、ちょっと、話がしたいんだ。今すぐ」

音緒「なーに? ゼッコーでもするの?」

優太(電話)「そんなわけないだろ! どんなことがあっても、絶対にそんなことするもんか! ていうか、させねーよ! ……とにかく、今すぐに、な! ぜってーだぞ! いいな!」

 【SE】電話が切れる音。

 外からドアが開く音が聞こえる。

 【SE】ドアが開く音。

 音緒、ため息をつき、

音緒「……強引なんだから……」

 音緒、ため息をつき、ちゃんちゃんこを着る。



○音緒の家2F ベランダ (夜)

 【SE】ベランダの扉が開く音。
 【SE】静かに吹く風の音。

音緒「ううーさむい……」

優太「よう」

 声の方向へと顔を向ける音緒。
 隣の家(優太の家)のベランダにいる優太が音緒に向かって軽く手を挙げている。上下パジャマで上はジャージを着こんでいる。
 音緒、優太に近づくため、ベランダの端まで行く。
 優太、気遣うように、

優太「いやあー久しぶりだなー……こうやって月を見るのは。今日は満月か」

 音緒、ふてくされたように、

音緒「……なーに、話って」

 優太、苦笑を浮かべ、

優太「そんなツラすんなよ。せっかくの顔が台無しになるぞ」

音緒「どうせ魅力的な顔じゃないもん。鼻の赤い、マヌケな豚っ顔よ」

優太「あ、あのなぁ……」

音緒「せっかく頑張って作ったのに……なんで慣れないことは空回りするんだろ、ほんと……はぁ……」

 音緒のため息が、白い息となる。

音緒「もう……やだ……」

 音緒、ベランダの柵に手を置き、顔を伏せる。

優太「そんなことねぇよ」

 優太、優しい口調で、

優太「うまかったよ」

音緒「え……?」

 優太の方を見る音緒。

優太「あいつらと一緒に、頑張って作ったんだなって。見てくれはダサかったけどさ、甘くて、俺好みだった」

音緒「……」

優太「だから、次に期待!」

 音緒、全身の動きが固まる。

優太「ん? おい、どしたー?」

 不思議そうに音緒を見つめる優太。
 音緒、顔を下に向けて、

音緒「そ、そ、そ、」

優太「へ?」

 音緒、大声で、

音緒「そうよ! あったりまえじゃない!! わたしが作ったものはなんだっておいしいのよ!! 見たか、バーカ!」

優太「バカ、声!」

音緒「あっ……」

 手で口をふさぐ音緒。
 冷たい風が吹く。

 【SE】冷たい風の音。

 優太、ため息をつき、

優太「おまえなあ……」

 音緒、嬉しそうに、

音緒「ごめーん」

 舌を出す音緒。
 優太、ため息をつくように、

優太「……ったく」

 優太、音緒の表情に安堵したように、

優太「まあ、でも、元気になってよかったよかった。やっぱ豚っ鼻の音緒は音緒じゃないもんなー」

 音緒、顔を膨らませて、

音緒「むー、どういう意味よ、それ」

優太「へっへーん、どういう意味かなー?」

 得意げな表情を浮かべる優太。

音緒「その顔見ると、めっちゃ悔しんですけど……あー、もう!」

 突然、うなだれる音緒。
 数秒、沈黙の後、音緒、小声で、

音緒「……決めた」

優太「へ?」

音緒「こんな結果じゃあ、あんたに負けているみたいでイヤだから、やってやるわ……今度の定期ライブで新曲を!」

優太「はあっ!?」

音緒「だって、喉の奥までスッキリしないこーんな気分じゃあ、わたしじゃないもの!」

優太「おいおい。別にいいじゃないかよ、チョコくらいで」

音緒「よくないの! やっぱりわたしにはチョコよりもこれだわ! 仕切り直しよ、優太!」

 優太に向かって指を差す音緒。

音緒「今度の定期演奏会、新曲を披露するから、絶対に来てよ! 今日、本当に言いたかったことを新曲で伝えてみせるから。わたしの煮え切らない想いをぶちまけてやるわ!」

優太「何だよそれ!? 俺だって大会がもうすぐ……」

音緒「他言は無用よ! ぜったいぜったいぜぇーーーーーったい来なさい! さもないとみっちぃの正拳突きを……」

優太「ああっ、おどすなんてずりーぞ!」

音緒「ずるいのはどっちよ。大会にきてあげているのに」

優太「うっ……」

 少しの沈黙の後、音緒、恥ずかしそうに、

音緒「と、とにかく、来てよ。アンタ、moment's(モーメンツ)の定期ライブ、1回も見てないでしょ」

優太「……っ!」

音緒「わかるんだからそれくらい。少しは、わたしの、カッコイイところくらい、見てよ」

 顔を赤らませる音緒。

優太「……」

 音緒を見つめる優太。
 優太、後頭部を掻いて、

優太「あーもう、わーったよ! しゃーねーなぁー。じゃあその代わり、ぜってーいいライブにしろよ!」

 音緒、自信満々に、

音緒「フン! そんなの、言われるまでもないわ。moment's(モーメンツ)、いや、わたしの勇姿をしかと目に焼き付けなさいっ!」

 音緒、自分の胸をたたく。
 少しの沈黙のあと、音緒と優太、お互いの顔を見ながら、

音緒・優太「あははははっ!」

 お互いの顔を見て笑った後、満月の月を見上げる二人。

優太「月、きれいだな」

音緒「ええっ!?」

 音緒、顔を下に向ける。
 優太、音緒の方へ顔を向ける。

優太「ん? どうしたんだよ」

 音緒、照れながら、

音緒「い、いや……あ、あのさ……『moonlight』を作詞しているときに勉強したんだけどね、な、夏目漱石だったけ? I LOVE YOUを月がきれいって訳したって……」

優太「へ……」

 固まる二人。
 顔が徐々に真っ赤になる優太。
 優太、慌てて、

優太「ち、ちちち、違うからな。単純に月がきれいだなーって思った。そ、それだけなんだかんな。む、無駄なことまで勉強しすぎだっつーの」

 音緒、照れる優太を見て、

音緒「ふふ……ふふふ……あははは」

優太「わ、笑うことはないだろー!」

音緒「ごめん、ごめん。照れている優太を見るの久しぶりだから、まっ、さっきのお返しってことで」

優太「……ったく、なんだよ、それ」

 満月を眺める二人。

音緒「月、今日もきれいね」

優太「ああ。とびっきりな」



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