新・永山あゆむの小さな工房 タイトル

永山あゆむの小説・シナリオ創作ホームページです。

Scene9-2
<登場人物>


・麻倉音緒(17)あさくらねお。主人公。女性。同好会バンド『moment's』のリーダー。高校二年生。

・小倉優太(17)おぐらゆうた。音緒の幼なじみでクラスメイト。男性。高校二年生。
・舞永朱莉(17)まいながあかり。音緒の友人。女性。高校二年生。
・七瀬楓華(17)ななせふうか。音緒の友人。女性。高校二年生。
・竹下実緒(16)たけしたみお。音緒の友人でクラスメイト。女性。高校二年生。
・仲須蒼士(17)なかすそうし。朱莉の彼氏(?)。男性。高校二年生。





○高校 運動場 テニスコート(夜)

(※Scene9-1からの続き)

 優太、音緒が持っているチョコレートが入っている箱を見て、不思議そうに、

優太「お、おお……」

 優太、ネオのチョコレートを受け取る。

【SE】受け取る音。

 黙り込む音緒と優太。

音緒「な、何か言いなさいよ」

優太「い、いや、今日、俺の誕生日でもないのに、なんでプレゼントを? つーか、何が入ってんの?」

 音緒、甲高い声で、

音緒「はああああっ!? アンタ、今日、教室出る前に言ってたじゃない!?」

優太「あ、ああ、バレンタインだよな?」

音緒「だから?」

優太「だからって……あ、ああっ!」

 音緒とチョコレートが入っている箱を何度も見る優太。
 音緒、ため息をつき、呆れたように、

音緒「……返す言葉がないわ」

 優太、顔を赤くして、

優太「わ、わりい。つ、つーか、おまえも何も言ってくれねーから、わかんねーよ」

音緒「それくらい察しなさいよ、バカ!」

優太「しょーがないだろ。こんなこと何年かに1回の経験しかねーんだから」

音緒「あっきれた。ほんと、テニスバカなんだから」

優太「そ、そっか。お、俺に、か……」

 二人の間に、再びしばしの沈黙。
 赤面の顔色のまま、固まる音緒と優太。
 優太、必死そうに、

優太「な、なあっ! この後、どうすればいいんだ!?」

 音緒、甲高い声で、

音緒「はあっ!?」

 優太、しどろもどろに、

優太「こ、こーいうときは、中を開けて食べるもん、なのか?」

音緒「そりゃそうでしょ! 食べたらいいじゃん、食べたら!」

優太「そ、そっか。そ、それは、今、すぐに?」

音緒「そうよ! わたしの手作りなのよ! 世界に一つしかない特別製よ! すぐに聞きたい!」

優太「て、てづくりぃ!?」

 音緒、優太が驚いたことに、不満そうな声音で、

音緒「なんでアンタもそんな反応なのよ」

優太「だって、おまえが料理するとこ、想像できるか? ほら、この間の家庭科んとき、包丁の切り方がわからんとか言って俺が代わりにやってあげたろ。それに、小学生の時には火力最大にして火事になりかけた、伝説の『音緒火事いっぱい事――』」

音緒「シャラ―――――ップ! 今は違うの! 雨に打たれて、滝に打たれて、ニュー音緒になって料
理スキルを身に着けたのよ! わたしのステータス欄にだって『スキル:料理』って表示されているわ!」

 優太、呆れたように、

優太「言っていることが中二病だぞ」

 音緒、やけになったように、

音緒「うるさーーーい! わかってるわよ、そんなこと!」

 音緒、息をつき、照れくさそうに、

音緒「……あかりんや楓ちゃん、実緒に教えてもらって、一生懸命作ったのよ。アンタの今の姿が本物じゃなかったら、こんなこと、絶対、しないわよ」

優太「……」

 照れくさくなり、黙ってしまう優太。
 音緒、照れくさそうに、

音緒「だから、食べてよね。食べなかったら一生、恨んでやるんだから」

優太「ありがとな」

音緒「ふんだ。あくまでも、幼馴染として、だからね!」

優太「分かってるよ。じゃあ、開けてもいいか?」

音緒「あ、開けたらいいじゃない」

 優太、包装紙を開き、箱を開ける。

 【SE】包装紙を開く音。



○高校 運動場 テニスコート前(夜)

 テニスコートの近くにある生垣から、音緒と優太の様子を見つめる、朱莉、蒼士、楓華、実緒。
 実緒、祈るように、

実緒「音緒ちゃん……」

 朱莉、前のめりになり、興奮気味に、

朱莉「ふおおお……ついに音緒が小倉にチョコを渡した……っ!」

楓華「朱莉ちゃん、バレちゃうから気持ち押さえて!」

蒼士「はははは……」



○高校 運動場 テニスコート(夜)

 テニスコートの後ろにある、ベンチに座っている音緒と優太。
 音緒、目を固く閉じて、

音緒(心の声)「喜んで。喜べ。喜びなさいよ!」
 
 包装紙を開き、チョコレートが入っている箱を見つめる優太。

優太(心の声)「い、いったい、どんなチョコなんだろ? よ、よし!」

 息を飲みこみ、箱を開ける優太。

優太「おお……」

 音緒、目を固く閉じたまま、

音緒「ど、どう?」

優太「お、お、おまっ……」

音緒「ん?」

 優太、大声で、

優太「おれとゼッコーする気かああああ―――――――――っ!!?」

 優太の声がこだまする。

音緒「へ?」

 音緒、優太の方を見て、固まる。
 そして数秒経ち、音緒、思わずベンチから立ち上がり、大きな声で、

音緒「えええええええーーー!?!?!」

 音緒、絶句して、固まった表情に。

優太「だって! これを見ろよ!」

 音緒、優太が持っているチョコレートの箱を確認する。
 チョコレートが真っ二つに割れている。

音緒「うっそぉっ!? な、なんで、どうして……どうして真っ二つになってんのよ――――――っ!」
   
 学校中に響くくらいの大声を出す音緒。
 音緒の声がこだまし、帰る生徒が彼女の方へと顔を向ける。
 音緒、力が抜けたように地面に膝をつく。
 
 【SE】地に膝をつく音。

音緒「そ、そんなあ……これじゃあ、失恋バレンタインだよ……」

 音緒、青ざめた表情で、ひとりごとをつぶやくように、

音緒「なにが原因でこんなことに……やっぱり朝の自転車が原因……? ナル男のせい……? わたし何か悪いことをした……?」

 優太、音緒の顔当たりに手を振って、

優太「おーい、だいじょーぶかー?」

 心配そうに見つめる優太。
 すると、テニスコートの近くにある生垣から、

朱莉(声のみ)「何やってんのよ―――――っ!!」

 大声を出す朱莉。

音緒「へ!?」

 声の方へと顔を向ける音緒。

朱莉「やばっ!」

 テニスコートの近くにある生垣の前にいる朱莉。慌てた素振りで口に手を当てている。
 朱莉の後ろには楓華、実緒、蒼士がいる。

優太「っ! おまえら!」

 驚く優太。

朱莉「あ、あははは……」

楓華「はぁ……」

 楓華、ため息をつく。
 音緒、立ち上がり、声を震わせて、

音緒「あかりん、楓ちゃん、みおっち、そして仲須……? え……なに……? もしかして、みんなずっと見ていたの……?」

 朱莉、慌てたように、

朱莉「そ、そうじゃないの! 音緒が心配で心配で……ちゃんと、渡すことができるか見守って……ね」

楓華「それを見ていたというの」

 朱莉、慌てて楓華に向かって

朱莉「冷静にツっこまないでよ!」

 実緒、心配そうに、

実緒「音緒ちゃん……」

 蒼士、メガネのフリッジを上げ、当たり障りのない言葉を選ぶように慎重に、

蒼士「ま、まあ、その……災難、だったな」

 楓華も慎重に、

楓華「こ、こんな日もあるよ……うん」

 数秒間、沈黙が続く。

音緒「う、うう……」

優太「へ?」

 音緒、双眸に涙があふれて、

音緒「うわあああああああん!!!!」

 音緒、鞄を持って逃げるように走っていく。

 【SE】走る音。

優太・朱莉「音緒っ!」

楓華・実緒「(優太・朱莉と同時に)音緒ちゃん!」

 校門の方へと走っていく音緒。

朱莉「音緒、待ってよ――――っ!」

 【SE】走る音。

 音緒を追いかける朱莉。

楓華「朱莉ちゃん! あーもう!」

実緒「待ってー」

 楓華、実緒、朱莉の後を追うように走っていく。

 【SE】走る音。

蒼士「え? ええええっ?」

 困惑する蒼士。

蒼士「ちょっ、待ってくれー!」

 慌てて朱莉たちを追いかける蒼士。

優太「あ……」

 呆気に取られる優太。

優太「何だったんだ、一体……」

 優太、二つに割れたチョコレートを見つめる。
 チョコレートを割る。

 【SE】チョコレートを割る音。

優太「ん……」

 優太、チョコレートを食べる。

 【SE】チョコレートを食べる音。

優太「おっ! うまい……」

 優太、驚く。


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