○高校 管理棟3F 図書室前(放課後)
【SE】階段を上る音。
【SE】廊下を歩く音。
音緒、図書室の扉の前に立っている。
音緒(心の声)「ここまできちゃった」
胸に手を当てる音緒。
【SE】胸が弾む音。
音緒(心の声)「もー、なんでこんなにドキドキしてるのよー。みちるやバンドメンバーに渡すだけなのに。アイツに渡すときはほんとに……」
頭を横に強く振り、
音緒(心の声)「こんなのわたしらしくない。いつも通り、いつも通りに行くのよ、わたし! リハーサルだと思うのよ!」
音緒、うなずき、図書館の扉を開ける。
【SE】図書館の扉を開ける音。
○高校 管理棟3F 図書室(放課後)
【SE】扉を閉める音。
音緒、図書室に入る。
健斗、伊藤巧(16)、長里みちる(16)が席に座っている。健斗と巧の向かい側にみちるが座っている。
健斗「あ、先輩」
巧「お……おつかれさまです」
みちる「おつかれ」
音緒「おつかれー」
みちるの隣の席に座る音緒。
【SE】席に座る音。
【SE】荷物を置く音。
みちる「遅かったね」
音緒「ごめん、実緒と話をしていたから。ふうー……」
みちる「どした? 昼休みもそわそわしてたけど、これから何かあんの?」
音緒「あー、ごめんごめん、ちょっとね。心の準備ってやつが、ね」
みちる「なんだそれ? それよりもいつものやつ、早くやろう。時間もないしさ」
音緒「そうね。早速、ミーティングを始め――」
健斗、音緒のセリフに続けて、
健斗「ちょっーと待ってくださいッス!」
音緒「な、何よ、いきなり」
健斗「はいっ!」
音緒に向かって手を差し出す健斗。
音緒「何、その手は……まさか、今月の定期ライブの締めは、このポーズをやりましょうとかでも言うつもり?」
健斗「ちがうっスよ! ボケはやめてくださいっス! それとも、本当にないんスか?」
懇願するようなまなざしで音緒を見つめる健斗。
音緒、朝、駐輪場でのことを思い出すように、
音緒「……あ、ああ、そのことね。ない!」
健斗、冗談だと思っているように、
健斗「またまたあ、あるんスよね!」
音緒「倒れた自転車をほったらかしにしたアンタに渡すものはないっ!」
【SE】ガーン! という音。
健斗、ショックを受けて、
健斗「そ、そんなあ……み、みっちぃ先輩、は?」
みちる「あたし? あたしにチョコを渡す趣味はないよ。まっ、仮に男からもらったとしても、はたき落とすから」
健斗に笑顔を見せるみちる。
健斗「先輩、鬼っス……」
音緒「みっちぃは、自分を女と認めない人じゃないと嫌なんだよね。あと年上」
みちる「そ。空手をやっていたから、男だと思われてんだよ、あたし。冗談じゃないよ。おネエじゃないっつーの!」
みちる、ふてくされる。
音緒「ははは……と、いうわけだから、なし! 残念だねー、ナ・ル・男」
健斗「うう……な、なんて薄情な人たちなんだ……うあーん!!」
机にうつ伏せになり、泣いてしまう健斗。
巧、健斗の肩に手を置き、
巧「……ドンマイ」
健斗「うるへー! おまえになぐさめられたくねーよ! てゆーか、ようやく喋るせりふがそれかよ、この大モテ寡黙野郎!」
巧「お、おいっ……!」
音緒・みちる「ええっ!?」
机に前のめりになる音緒とみちる。
音緒「健斗、それ本当なの!?」
みちる「詳しい話を!」
健斗「うっス! コイツの鞄の中、たっくさんのチョコが入ってるっス」
健斗、床に置いてある巧の鞄を机に置く。
【SE】鞄を机に置く音。
巧「……ちょ! 勝手に!」
健斗「てめーだけズルはなしだぜ!」
健斗、羽交い締めして健斗の動きを止める。
【SE】動きを抑える音。
巧「は、離せ!」
健斗「いやだね! みっちぃ先輩!」
みちる「巧、諦めるんだね……どれどれ」
みちる、鞄を開ける。
【SE】鞄を開ける音。
巧「ああ……」
鞄にはたくさんのチョコレートであふれている。
みちる「うおっ! マジかよ、この量……」
音緒「ぎっしり入ってんじゃん。少なくとも百個以上は入ってるよね、これ!」
巧、恥ずかしそうに、
巧「うう……」
音緒、嬉しそうに、
音緒「タッくん、モッテモテになったわねえ。お姉さん、嬉しいわぁー」
巧、照れくさそうに
巧「……あ、はい……ども……です」
みちる、巧の肩をたたきながら、
みちる「腕を上げやがって、このこのぉ」
巧「い、痛いです……」
音緒「んーやっぱり、ライブでの豹変ぶりが功を奏しているのかな?」
みちる「だよね。それ以外に見当たらないよ。ライブでは練習以上のパフォーマンスだし、ベースは縁の下の力持ちだもんな」
音緒「そうそう、人気ができてとーぜん!」
健斗「そーなんスよ!」
健斗、悔しそうに、
健斗「こーんなむっっっつりなクセして、女子に囲まれ、黄色い声をかき集めて。朝も昼もここに来る前も、ハイ、ハイ、ハイ、とチョコの嵐! それを俺は、いや、一年男子は指をくわえて見る始末。こんな甘い衝動を、こいつは、こいつは……あー、俺も酔いてぇっスよおおおおおおっ!」
机に突っ伏せして、大泣きする健斗。
みちる「あらら」
少しの間の後、音緒、ため息をついて、
音緒「……仕方ないわねえ」
音緒、鞄を開いて何かを取り出す
【SE】鞄から取り出す音。
(※Scene7-2につづく)
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