新・永山あゆむの小さな工房 タイトル

永山あゆむの小説・シナリオ創作ホームページです。

Scene7-1
<登場人物>


・麻倉音緒(17)あさくらねお。主人公。同好会バンド『moment's』のリーダー。女性。高校二年生。

・長里みちる(16)ながさとみちる。音緒の友人。同好会バンド『moment's』ギター担当。女性。高校二年生。
・野上健斗(16)のがみけんと。音緒とみちるの部活の後輩。同好会バンド『moment's』ドラム担当。男性。高校一年生。
・伊藤巧(16)いとうたくみ。音緒とみちるの部活の後輩。同好会バンド『moment's』ベース担当。男性。高校一年生。





○高校 管理棟3F 図書室前(放課後)

【SE】階段を上る音。
【SE】廊下を歩く音。

 音緒、図書室の扉の前に立っている。

 音緒(心の声)「ここまできちゃった」

 胸に手を当てる音緒。

 【SE】胸が弾む音。

音緒(心の声)「もー、なんでこんなにドキドキしてるのよー。みちるやバンドメンバーに渡すだけなのに。アイツに渡すときはほんとに……」

 頭を横に強く振り、

音緒(心の声)「こんなのわたしらしくない。いつも通り、いつも通りに行くのよ、わたし! リハーサルだと思うのよ!」

 音緒、うなずき、図書館の扉を開ける。

 【SE】図書館の扉を開ける音。



○高校 管理棟3F 図書室(放課後)

 【SE】扉を閉める音。

 音緒、図書室に入る。
 健斗、伊藤巧(16)、長里みちる(16)が席に座っている。健斗と巧の向かい側にみちるが座っている。

健斗「あ、先輩」

巧「お……おつかれさまです」

みちる「おつかれ」

音緒「おつかれー」

 みちるの隣の席に座る音緒。

 【SE】席に座る音。
 【SE】荷物を置く音。

みちる「遅かったね」

音緒「ごめん、実緒と話をしていたから。ふうー……」

みちる「どした? 昼休みもそわそわしてたけど、これから何かあんの?」

音緒「あー、ごめんごめん、ちょっとね。心の準備ってやつが、ね」

みちる「なんだそれ? それよりもいつものやつ、早くやろう。時間もないしさ」

音緒「そうね。早速、ミーティングを始め――」

 健斗、音緒のセリフに続けて、

健斗「ちょっーと待ってくださいッス!」

音緒「な、何よ、いきなり」

健斗「はいっ!」

 音緒に向かって手を差し出す健斗。

音緒「何、その手は……まさか、今月の定期ライブの締めは、このポーズをやりましょうとかでも言うつもり?」

健斗「ちがうっスよ! ボケはやめてくださいっス! それとも、本当にないんスか?」

 懇願するようなまなざしで音緒を見つめる健斗。
 音緒、朝、駐輪場でのことを思い出すように、

音緒「……あ、ああ、そのことね。ない!」

 健斗、冗談だと思っているように、

健斗「またまたあ、あるんスよね!」

音緒「倒れた自転車をほったらかしにしたアンタに渡すものはないっ!」

 【SE】ガーン! という音。
 健斗、ショックを受けて、

健斗「そ、そんなあ……み、みっちぃ先輩、は?」

みちる「あたし? あたしにチョコを渡す趣味はないよ。まっ、仮に男からもらったとしても、はたき落とすから」

 健斗に笑顔を見せるみちる。

健斗「先輩、鬼っス……」

音緒「みっちぃは、自分を女と認めない人じゃないと嫌なんだよね。あと年上」

みちる「そ。空手をやっていたから、男だと思われてんだよ、あたし。冗談じゃないよ。おネエじゃないっつーの!」

 みちる、ふてくされる。

音緒「ははは……と、いうわけだから、なし! 残念だねー、ナ・ル・男」

健斗「うう……な、なんて薄情な人たちなんだ……うあーん!!」

 机にうつ伏せになり、泣いてしまう健斗。
 巧、健斗の肩に手を置き、

巧「……ドンマイ」

健斗「うるへー! おまえになぐさめられたくねーよ! てゆーか、ようやく喋るせりふがそれかよ、この大モテ寡黙野郎!」

巧「お、おいっ……!」

音緒・みちる「ええっ!?」

 机に前のめりになる音緒とみちる。

音緒「健斗、それ本当なの!?」

みちる「詳しい話を!」

健斗「うっス! コイツの鞄の中、たっくさんのチョコが入ってるっス」

 健斗、床に置いてある巧の鞄を机に置く。

 【SE】鞄を机に置く音。

巧「……ちょ! 勝手に!」

健斗「てめーだけズルはなしだぜ!」

 健斗、羽交い締めして健斗の動きを止める。

 【SE】動きを抑える音。

巧「は、離せ!」

健斗「いやだね! みっちぃ先輩!」

みちる「巧、諦めるんだね……どれどれ」

 みちる、鞄を開ける。

 【SE】鞄を開ける音。

巧「ああ……」

 鞄にはたくさんのチョコレートであふれている。

みちる「うおっ! マジかよ、この量……」

音緒「ぎっしり入ってんじゃん。少なくとも百個以上は入ってるよね、これ!」

 巧、恥ずかしそうに、

巧「うう……」

 音緒、嬉しそうに、

音緒「タッくん、モッテモテになったわねえ。お姉さん、嬉しいわぁー」

 巧、照れくさそうに

巧「……あ、はい……ども……です」

 みちる、巧の肩をたたきながら、

みちる「腕を上げやがって、このこのぉ」

巧「い、痛いです……」

音緒「んーやっぱり、ライブでの豹変ぶりが功を奏しているのかな?」

みちる「だよね。それ以外に見当たらないよ。ライブでは練習以上のパフォーマンスだし、ベースは縁の下の力持ちだもんな」

音緒「そうそう、人気ができてとーぜん!」

健斗「そーなんスよ!」

 健斗、悔しそうに、

健斗「こーんなむっっっつりなクセして、女子に囲まれ、黄色い声をかき集めて。朝も昼もここに来る前も、ハイ、ハイ、ハイ、とチョコの嵐! それを俺は、いや、一年男子は指をくわえて見る始末。こんな甘い衝動を、こいつは、こいつは……あー、俺も酔いてぇっスよおおおおおおっ!」

 机に突っ伏せして、大泣きする健斗。

みちる「あらら」

 少しの間の後、音緒、ため息をついて、

音緒「……仕方ないわねえ」

 音緒、鞄を開いて何かを取り出す

 【SE】鞄から取り出す音。


 (※Scene7-2につづく)

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