新・永山あゆむの小さな工房 タイトル

永山あゆむの小説・シナリオ創作ホームページです。

Scene8-2
<登場人物>


・麻倉音緒(17)あさくらねお。主人公。同好会バンド『moment's』のリーダー。女性。高校二年生。

・小倉優太(17)おぐらゆうた。音緒の幼なじみでクラスメイト。男性。高校二年生。
・舞永朱莉(17)まいながあかり。音緒の友人。女性。高校二年生。
七瀬楓華(17)ななせふうか。音緒の友人。女性。高校二年生。
・竹下実緒(16)たけしたみお。音緒の友人でクラスメイト。女性。高校二年生。
・仲須蒼士(17)なかすそうし。朱莉の彼氏(?)。男性。高校二年生。
・長里みちる(16)ながさとみちる。音緒の友人。同好会バンド『moment's』ギター担当。女性。高校二年生。
・野上健斗(16)のがみけんと。音緒とみちるの部活の後輩。同好会バンド『moment's』ドラム担当。男性。高校一年生。
・伊藤巧(16)いとうたくみ。音緒とみちるの部活の後輩。同好会バンド『moment's』ベース担当。男性。高校一年生。





○高校 プレハブ小屋(夜)

(※Scene8-1からの続き)

 5秒の沈黙の後、健斗が何かの冗談だろうと否定するように、

健斗「いやいやいや、そんなこと、あるわけねぇっスよ! なあ、巧」

巧「……お、おう」

健斗「あのガサツでワガママな殺人ポニテの先輩が恋だなんて、まったく見当もつかないっス! 絶対にありえないっスよ!」

 朱莉、真っ向から否定するように、

朱莉「いいえ! みんなは知らないかもしれないけど、実は音緒って子供のころからずっと好きな人がいるのよ」

 みちる、びっくりしたように、

みちる「マジで!?」

 健斗、恋する音緒が想像できず、絶句したように、

健斗「うっそ……」

朱莉「結果的にあいつの弱腰な態度に興ざめして、つき合うことはなかったんだけどね。なんせプライドが高いからねえ」

みちる「あ、確かに」

健斗「完璧主義者っスからね、先輩。曲作りやライブの構成も、納得するまで詰めこみますから」

朱莉「音緒は自分が決めたことが思い通りならないと気が済まないからね。だからこそ、自分のプライドを折ってでも実行するのよ」

巧「あ、だから……」

朱莉「そっ、アタシらの前で見られたくない。つまり、ツンツンな人ってこと。コソコソしてもすぐにバレるのに。そこがかわいいところでもあるんだけど」
みちる「で、音緒が好きな相手はどこの誰だよ?」

朱莉「えっとね、同じクラスにいる――」

蒼士(声のみ)「舞永さん!」

 仲須蒼士(17)がプレハブ小屋の扉の前にいる。汗だくになっている。鞄を持っている。
 みちる、健斗、プレハブ小屋の扉の方へと顔を向ける。

みちる「仲須」

 朱莉、嬉しそうに、

朱莉「そうちゃーん!!!!」

健斗「仲須先輩、お疲れさまっス」

蒼士「あ、ああ……お疲れ」

 蒼士、靴を脱いでプレハブ小屋へと入っていく。

 【SE】靴を脱ぐ音。

みちる「やけに汗かいているけど、何かあったのか?」

仲須「いや、舞永さんから『お願いそうちゃん、早く来てっ!』ってメールが来たから速攻で着替えて……はぁ……はぁ……」

みちる「え?」

 後ろにいる朱莉に振り返るみちる。

朱莉「うん、送った」

 みちるにスマホを見せる朱莉。

みちる「いつの間に」

蒼士「舞永さんの身によからぬヤツが来たのかと思って……よかった……」

健斗・巧「ははは……」

みちる「仲須、間に受けすぎ」

蒼士「し、仕方ないだろ。だ、だ、」

みちる「だ?」

 蒼士、照れくさそうに、メガネのフリッジをあげ、

蒼士「大事な人、だから」

みちる「ヒュー―――ッ」

健斗・巧「おおー……」

朱莉「そ、そうちゃ――――ん!!!!」

 朱莉、蒼士のもとへ走っていき、抱きしめる。

朱莉「これからも一緒だよ――――っ!!」

蒼士「ま、まいながさん、苦しいから!」

 みちる、健斗、巧、朱莉と蒼士のやりとりに呆然となる。

みちる「はいはい、イチャイチャは後にしてくんない? 話が進まないから」

朱莉「もう、つれないんだから。どうやってチョコを渡しか聞きたい?」

みちる「どーせ、部活で部員たちの前で盛大にやったんでしょ。で、仲須が大変な目にあったと」

朱莉「失礼ね。愛の詰まったバレンタインだったよねー、そうちゃん」

 満面の笑みで蒼士を見つめる朱莉。
 蒼士、疲れ切った感じで、

蒼士「あ、ああ。彼女なりの愛を受け取ったよ……」

みちる「うん。とびっきり重たい愛をな。仲須、ご愁傷さま」

楓華(声のみ)「なにくだらないコントをしているの?」

 楓華がプレハブ小屋の扉の前にいる。鞄を持っている。

みちる「楓!」

朱莉「楓ちゃん、来てくれたんだー」

みちる「来てくれた、ということは……」

楓華「呼びだされたわ。LINEで『楓ちゃんがいないとアタシ、星になっちゃう』って。星になるのもあんまりだから来てみた」

みちる「律儀だねー……」

 楓華、靴を脱いでプレハブ小屋へと入っていく。
 【SE】靴を脱ぐ音。

朱莉「楓ちゃん、音緒は見なかった?」

楓華「やっぱりそのことね。ええ、見なかったけど。音緒ちゃん、今から彼に告白するの?」

朱莉「そう、それよ!」

みちる「だから誰なんだよ、そいつは?」

朱莉「そいつはねー、現男子テニス部部長、小倉優太のことよ!」

みちる「小倉って、音緒のことをネッチーって言ってる」

朱莉「そう。アタシと楓ちゃんもだけど、アイツとは小・中とずっと一緒でね、音緒と小倉の家ってお隣同士なの」

健斗「そうなんスか! 道理で犬猿の仲っつーか、音緒先輩が意地になってるつーか」

みちる「で、今日がバレンタインデーだから、あたしたちには内緒でってことね。確かにいつもの音緒と比べるたら、ガラにもないことをしてるな」

朱莉「恋……って本人は気づいていないかもだけど、恥ずかしがって、ツンツンしている時点で恋というものよ。まあ、音緒の場合は好き避けっぽい症状だけど」

みちる「好き避け?」

朱莉「簡単に言うと、好きな相手に素っ気なくなったり、ツンツンしたり、冷たい態度をとることよ。女の子に限らず、男もなるみたいだけど」

巧「そうなんですね……」

楓華「確かに音緒ちゃんそのものね」

朱莉「でしょー。小倉相手だとツンだけの音緒が、最大級のデレを見せるのよ。そんな音緒の勇士を、恋愛マイスターのアタシが見届けなきゃいけないと思うわけよ!」

健斗「いつからそんな肩書きがついたんっスか?」

みちる「健斗、ツッコんだら負けよ」

朱莉「それに、今回は運がいいことに、音緒を見届ける役者がそろっている!」

楓華「それって……」

蒼士「僕たちのことか?」

朱莉「イエース! ザッツライト!」

蒼士「やはりか……」

朱莉「そしてもう一人が今!」

実緒「朱莉ちゃん?」

 楓華がプレハブ小屋の扉の前にいる。鞄を持っている。
 実緒の方へと振り向く、みちる、健斗、巧、蒼士。

みちる「実緒! アンタも呼び出されたの?」

実緒「呼び出された? ううん、朱莉ちゃんから『一緒に帰ろう』って誘われたんだけど」

蒼士「舞永さんにとって、それは『呼び出した』と同じなんだよ」

実緒「え? どういうこと? それに楓華ちゃんまで、みんな集まってどうしたの? 音緒ちゃんは?」

朱莉「まあまあ、詳しいことは一緒に来たら分かるから。それじゃあそろそろ行こっか。みっちゃんはどうする?」

みちる「いや、遠慮しとく。あたしはそういうの性に合わないから。今から練習だし」

健斗「じゃあ、みっちぃ先輩の代わりにオレが」

みちる「ナル男、もう一発受けたい?」

 右手の関節を鳴らすみちる。
 健斗、笑顔できっぱりと

健斗「遠慮しておきます」

巧「ははは……」

朱莉 「厳しいねぇ。じゃあ、分かったらメールするね。よーし、そうちゃん、みおっち、楓ちゃん、行くわよ!」

 朱莉、鞄をもって蒼士の袖を引っ張る。
 蒼士、慌てながら、

蒼士、「ちょ、ちょっと、どこへ!?」

朱莉「いいからいいから! とにかく、アタシについてきてよ! ほら、みおっちも一緒にきて」

実緒「う、うん」

 朱莉、蒼士、プレハブから出る。
 
 【SE】靴を履く音。
 【SE】歩く音。

 楓華、やや呆れ口調で、

楓華「騒がしいんだから」

みちる「ははは。あーなった朱莉は音緒と同類になるからな」

楓華「困ったものね」

 【SE】靴を履く音。

みちる「楓。何かあったら頼むよ」

楓華「わかってるわ」

 【SE】歩く音。

健斗「嵐が過ぎ去りましたね」

みちる「音緒は今日、状況次第では練習に来ないかもなー……まあ、それよりも時間を取られたな。あたしたちだけでも練習始めるよ!」

健斗「うっス!」

巧「はい……」



○高校 運動場 テニスコート前(夜)

 テニスコートの近くにある生垣に隠れ、様子を伺う音緒。
 テニスコートからはボールを打つ音が聞こえる。

音緒「ふう。楓ちゃんがこっちに向かってきたときはどうかと思ったけど……無事にやり過ごせたわね」

 生垣から抜け出す音緒。

音緒「さてと」
 
 ライトが点灯されたテニスコートを見る音緒。
 コートには優太がだけがいて、サーブの練習をしている。
 音緒、鞄からチョコが入っている、赤い包装紙で包まれた箱を取り出す。
 音緒、両手が震える。気難しい表情でチョコが入った箱をしばらく見つめる。
 音緒、目を強く閉じ、顔を横に振り、

音緒(心の声)「いやいや、何も始まらないって言ったのはわたしよ! それにあかりんが言ったように、い、いしはくじゃく? な人に資格はないって言ってるんだから、いつも通り、いつも通りを装って勝負、勝負よ!」

 音緒、目を開け、優太のいるテニスコートへと向かう。



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