新・永山あゆむの小さな工房 タイトル

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第二章(2)



「こ、ここ……だわ……」

 ハア、ハア、息を荒げらながら、目の前にある太陽光パネルのついた青い屋根の一軒家――実緒の家へと辿(たど)り着いた。

「うわ、やば……」

 灼熱(しゃくねつ)の太陽の下、ネオは全身汗まみれだった。せっかく友達が外出用に選んでくれたパステルブルーのシフォンブラウスと七分丈のデニムにも汗の湿り気を感じ、べたべたする。ホント、せっかくの服がこんな形で不格好になってしまい、友達にも実緒にも申し訳ない。

 だって大変だったのだ。ここまで来るのが!

 ――それはまさに、試練という言葉がお似合いだった。

 家を出て、通学用の自転車で軽やかに国道沿いを進む……まではよかったのだが、教えられたルートは徐々に国道から離れていき、狭い道を通り、しまいにはあの坂――総合坂よりも急な角度の長い坂が待ち受けていた。この試練を乗り越えたら、絶景や楽園が待っている、と思うくらいの。灼熱の太陽の下で、これは反則だろう!

 実緒が親の車で毎日登校するのが理解できた。

 地獄から天国に這い上がらないといけない状況を目の当たりにして、ネオの身体はへなへなにふやけて、自転車のハンドルバーの上にもたれ掛る。しかし、その先で親友と思っている実緒が待っているのだ。彼女が笑っている姿が脳裏に焼き付く。そんな彼女を、自分がここで引き返して、悲しませ、「友達をやめる」なんて言われたくない。「大変だよ」と忠告してくれた実緒に「大丈夫だから!」と余裕の表情で言ったのは自分なのだ。責任を果たさないと。

 「実緒がわたしを待っている!」と自分に言い聞かせ、自転車を押しながら坂を必死に歩いていった。

 ――それを乗り越え、ここに実緒の家に着いた。

 おかげで喉はカラカラ、足はヨロヨロでサンダルを穿(は)いている感覚がなく、身体が悲鳴をあげている。やはり、陸上をやめたからであろうか。

「は、はやく……中に……」

 このままこの日差しを浴びると、魂が肉体から飛び出そうだ。

 ネオは家の前に自転車を置いて、カゴに入っているピンクのショルダーバックを取り、ヘビーな顔つきで前のめりになりながら、玄関の近くにあるインターホンを、


 ピンポーン!


 タッタッタッタ、とドアの奥から走ってくる音が聞こえてくる。

 ガチャ! と扉が開き、

「あ、ネオちゃん」

「や、やあ……」

「……だ、大丈夫?」

 全身から噴き出す汗と、死にそうな友の顔に実緒はあっけにとられる。

 今日の彼女は、学校の時のような真面目な雰囲気ではなかった。

 いつも見るストレートの髪ではなく、少しウエーブをかけてふわふわしており、白い水玉模様がある紺色(こんいろ)のチュニック、ピンクの九分丈カーゴパンツと、いかにも可愛さを引き立てる、夏にピッタリの服装。その姿はまさに可愛い! のひと言。男子も女子も関係なくノックアウトされる愛くるしさ! まるでモデルみたい!

 学校でもそんなんでいいのよ! と言ってやりたいが。

「つかれたぁー……」

「ちょ、ちょっと、ネオちゃん!?」

 つかれた、の4文字しか浮かばす、実緒にもたれかかった。

 やっぱり、ここまで登ってくるバスに乗ればよかった。

 後ろから、ブロロロロロ、と大きなエンジン音が聞こえた。


※※※



「本当に、大丈夫?」

「な、何とか……聞いたときはそれほどでもないと思ってたけど……地獄だわ。あれは……」

「だから言ったのに……はい、お茶」

「ありがとう」

 あやうく熱中症になるところだった……、とカーペットの上にへたりこんでるネオは、お茶をグイッ! と飲み干した。

 乾ききった喉が一気に潤い、

「ぷっっっはーっ、生き返った――――っっ!」

 ドン! とローテーブルにコップを叩きつけた。その姿はビールで疲れを流し込むサラリーマンのようだ。この瞬間だけ、ネオは間違いなく中年のオッサンへと変わった。

 そのオッサンに実緒は、

「じゃあ、もう一杯いりますか? ご主人様?」

「うむ。いただこう……って、わたしはアキバ系の男どもか!」

 メイドのような姿勢でネオをもてなす彼女に、すかさずツッコミを入れる。その空気が妙に可笑しくなって、二人は笑い合った。

 実緒の意外な一面をまた見ることができ、ネオは嬉しかった。打ち解けてよかった、と心からそう思う。

 ふう……、と一旦、呼吸を落ち着かせ、

「それにしても……」

 ネオは辺りを見回す。

「……わたしの部屋と全然違うわね」

 螺旋(らせん)階段を上った先にあるこの部屋――実緒の部屋。

 この趣味全開と言わんばかりのコーディネートは一体何なんだ?

 ネオから見て左の隅にあるタンスの上には、綺麗に並んだクマやパンダなどの可愛いぬいぐるみが並んでいる。タンスの隣は、自分の机が置いてあり、教科書などがきちっと整理されている。右の隅に置かれてある縦に長い3段の本棚には、漫画(もちろん『ミラーマジック』が全館揃っている)と絵の入門書やずらっと並んでいる。

 仕上げはこの部屋を象徴する色――壁やカーテンが全てピンク。そしてカーペットもピンク。そして実緒の穿(は)いているカーゴパンツもピンク! ピンクピンクピンク! 部屋全体ピンク一色!

 学校で見る彼女の雰囲気とは裏腹のファンシーな部屋に、目からうろこが落ちる。どこでもドアで別世界に連れてこられたのかと思った。

「……どうやったらこんなに可愛い部屋になるのよ?」

「えっと……綺麗しようと思って、色々とこだわってたら壁紙も貼りたくなって、気がつけばこんなになっちゃた」

 つまり、あくまで自然の摂理でなった、ということ?

 ……。

 ――はああああっ!!!!?

「うっそーん! こだわるにもほどがあるわよ、これ。……わたしなんか、音楽雑誌やら、楽譜やら、ぐちゃぐちゃに置きっぱなしでも、平気に中へ入れるもん」

「そ、そうなんだ……」

 それはどうかと……、と思いながら実緒は微苦笑してみせる。

「すっごぉー……」

 病(や)みつきになるとここまでやるのか! その精神に、ネオは感服した。絵もそうだけど、実緒ははまるとすごいんだなあ。自分もそのぐらい音楽を極めないと。

「で、おじさんとおばさんはどんな仕事をしているの?」

「お父さんは銀行員で、お母さんはファッションデザイナーだよ」

「へぇー、ファッションデザイナーかあ。かっこいいなあ……」

 母親がデザイナーとは……何となく実緒が絵を描いているルーツが分かったような気がした。そして、その可愛い服はおそらくお母さんが作ったものだろうとネオは思った。

 自分も……というか、moment’sの服を作ってほしいなあ。デザインはだいたい決まっているし、それを四人とも一緒にして団結してる雰囲気を作って……、

「ネオちゃん?」

「うおっと!」

 実緒がネオを妄想世界から連れ出す。

「どうしたの?」

「ごめんごめん、考え事してた。ああ、もう、こんなんじゃあ本題に入れないよね!」

 ネオは慌てて目の前に置いてあるショルダーバッグを取り、中からケースを取り出す。その中にはディスクが入っていた。

「はい。これが約束のブツね」

「これは……DVD?」

「うん。昨日開催されたロックフェスでわたしのグループ――moment’sがライブをやったんだ。そのときの映像よ。兄貴に撮ってもらったんだ」

「そうなんだ」

 夏休みにあった、岩国市内で活動しているアマチュアバンドのロックフェス――アマチュア・ロック・フェスティバルin IWAKUNI。閑散とした商店街にある小さなライブハウスであった、若者たちの青春で彩(いろど)られた日。

 このディスクには、ネオたちmoment’sのひと夏の記憶が刻まれている。兄貴――麻倉広樹(あさくら こうき)の協力により。

「ありがとう。早速見てもいい?」

「もちろんよ!」

 実緒はすぐに勉強机に置いてあるパソコンをローテーブルに置き、起動し、ディスクを入れて動画を再生する。

 真っ暗な会場の中で、ステージのセンターに立っている岩国総合高校の夏服を着ているネオにスポットライトが浴びる。その瞬間、観客の歓声が沸き上がる。

『みなさん、こんにちは――――――っ!! moment’sです! 今日は、このステージで、みんなが忘れないように、この瞬間を胸に刻んでやるからな! 準備はいいかぁ、しっかりついてこいよ―――――っ!! それではいくぜ! ワン、ツー、スリー、ワァ――――――ッ!!』

 叫んだ瞬間、ステージが明るくなり、ネオの後ろにいる同じく総合高校の夏服を着た、みちる(ギター)、巧(ベース)、健斗(ドラム)が暴力的な音を奏(かな)で、観客たちの耳に刺激をあたえ、彼らも負けじと『ワアアアアアアアアッ!』と一体となって絶叫した。ネオたちのライブが今、始まった。

 ――実緒は一つ一つの曲ごとにネオの解説を受けながら、彼女たちの楽曲を楽しんだ。

 有名なプロのアーティストのアップテンポな曲がうまく再現されており、moment’s独自の楽曲も、彼らが伝えたい『前進』というキーワードのもと、風を駆け抜けるような熱い曲が溢れていた。

 そして、

「じゃあここで一旦、おふざけターイム!!」

 謎のコーナーの始まりに、観客たちは響(どよめ)く。

『どーしても、この舞台で自分のキャラをさらけ出したいというメンバーがいるので、くぁわりに歌ってもらうわよーっ!! なるお――――――っ!!』

『うおぉぉおおいっ!?』

 あらかじめ決めていた演出ではないが、奥のドラムがある場所から、某有名お笑い芸人事務所が劇場でやっている舞台ばりのズッコケをなるお……いや、ナル男こと野上健斗。いつも演奏する時に巻いているバンダナがずれる。開場からぶわっ! と笑いが巻き起こる。

 自分のことを『ナル男』と言われたのが気に障(さわ)ったのか、顔を赤くしながら大股開(おおまたびら)きでネオの下へと行き、

『それ、本番中に言わないで下さいよっ!』

 ネオが持っているマイクをぶんどり、ボーカルの位置へと立つ。逆にネオは、奥にあるドラムの席へと座る。

 健斗はマイクを叩き、調子を伺う。

 すると、目の前にいる女の子たちから、

『ナル男――――っ!!』

『うるせぇ―――っ!』

 マイク越しで健斗がツッコむ。

「ボーカル、ネオちゃん以外にもいるんだ……」

 その映像を見て、ポカーンと口が開く実緒。

「うん、わたしは未だに納得できないんだけどね」

 怪訝(けげん)な顔つきで映像を見るネオ。

「何かあったんだ」

「うん、あったの」



※※※




 ――それは、ロックフェス開催一週間前のこと。

「だーかーらー! アニメソングには、J-POPとは違う魅力があるんスよ!」

「魅力、ねぇ……」

 ネオはうーん、と呻くように考え込む。

 ――だめだ、やっぱり理解できない。アニソンの魅力。

 こいつにボーカルをやらせたのは間違いだったのでは、と思う。でも、入部前にカラオケで聴いた声が良かったから文句は言えまい。

「わたしはミニコンサートでやっている曲のほうがいいんだけどねぇ……」

「アニソンには、それしかないパワーが宿っているんですよ! ハイテンションにさせたり、J―POPにはない独特な曲調! そして、負けず劣らず、アニメから引き出された、現代に問うダイレクトなメッセージ性! 水木兄貴曰(いわ)く、『アニソンには勇気や夢や希望や正義など、人間が忘れてはいけないものがたくさん揃ってる』んですよ!」

「『ゼット!』の人がそう言ってもなぁ。わたし、わっかんないし……」

 その一言に、どんだけもったいないことをしているんだこの人、と健斗は心の底から思う。

「うー、みっちぃ先輩ぃー」

 泣きそうな呻き声をあげながら、隣にいるみちるに懇願する。彼女は、ネオに説得して健斗に歌うチャンスをくれた、唯一の救世者なのだ。

「そうだなあ……」

 みちるは顎に手を置き、目を瞑る。そして、十秒も立たないうちに、何かを決断したように、パチッと目を開いて顎から手を離し、

「ネオ……やらせようよ!」

「みっちぃ先輩!」

 みちるの決断に、健斗は目を輝かせる。

「ほ、本気で言ってるの?」

 唖然とした顔でみちるを見つめるネオ。

「本気だよ。ここまでコイツが言うんなら、好きにやらせた方が今後のためにもなると思うよ。ここで断って、今、『俺、部活やめるっス!』とか言われても困るし。それにあたしも、」

 そして不敵な笑みを浮かべ、

「アニソンを演奏することに、興味がある。面白そうじゃないの!」

 ふふん! と鼻で笑った。

「ま、マジ……?」

「これもmoment’sに必要だってことよ」

 ふふん、とほくそ笑み、ネオの両肩を叩く。

「……というわけで、文句を言ったら……」

 鉛が乗っているかのように、グッ! とみちるの両手が肩に重くのしかかる。

 これはもう逆(さか)らえまい。部長はわたしなのに……。

「わ、わかったわよー……だったら、健斗! そんなに自信があるのなら、恥を覚悟で本気で歌ってもらうからね!」

「言われるまでもねえっス! やってやりますよ!!」


※※※



「こいつ、ものすっごいナルシストなのよ」

「そうなの?」

「見たらわかるわよ」

 そんな風には見えないけど……、実緒はパソコンに映っている映像を見つめる。

 ネオの真後ろ――ドラム担当の野上健斗がセンターに立ち、ドラムのところにネオは座る。このためだけに、必死に練習してきた。指導者がセンターに立っている生意気な後輩だということが、どこか釈然(しゃくぜん)としないが。

 映像の健斗は観客に向かって指を差し、

『いいかぁお前ら! リーダーからナル男とバカにされたが、そうはいかねぇ! 念願かなったオレ様の魅惑(みわく)のヴォイスで、甘い楽園へと誘ってやるぜえぇぇぇぇ!!!!ウワ――――――オ!!!!』

 と全力でシャウト。

 観客も大声でそれに応える。

『リーダーに説得に説得しまくってつか(つか)んだ、俺が愛してやまないアニメソングとその良さを、moment’sロックで表現してやるぜ――――――っ!!!! いくぞぉ! みんなも知っている今話題の人気アニメ、世紀末美少女ポパイちゃんのオープニングより、恋に恋してノックアウトオォォォォォオオ!!!!』

 ネオの叩く小刻みなドラム音から、曲がスタートする。

よく知っているなぁ……、画面で盛り上がっている八割の観客に、ネオは無言のツッコミを入れる。アニメ知識のない自分だけ、蚊帳(かや)の外にいるような気がした。

 センターにいる健斗は、これがやりたかったんだよ! と言わんばかりのハイテンションでアニソンを歌う。

 しかし、見事な歌いっぷりにネオは改めて心の中で、認めたくはないが「すご……」と思った。

 明らかに女性ものの曲であるが、高い音域をものともせず平気な顔で楽しく歌っているのだ。さすが、中学のときにもバンドを組んで、文化祭をアニソンで盛り上げただけのことはある。あのアニソンの帝王も驚くに違いない。

『――君にノックアウト、ノックアウト、ノ――――クゥ、アウトォ――――――ッ!!!!』

 空に向かってシャウトし、楽園の終幕(しゅうまく)を告げた。

 うお――――――っ!! と観客の叫び声が響く。

 その声に、健斗はすがすがしい表情で、

『この楽園、楽しんでいただけたかな?』

 左目をウインクし、左手の指で銃を作り、観客に向かってパキューン! とギザなポーズをとる。

 その姿に男子たちは、『いいぞ――――――っ!!!!』や『ナルシ――――――!!!!』と賞賛(?)が、逆に女子生徒からは『キモ――――――い!!!!』とか、『こんのナル男―――――――っ!!!!』とか言われ放題だった。

 ナル男発言した女子たちに向かって『その名で言うな!』とツッコミながらも、満足気(まんぞくげ)な表情でネオと席を交代する。この舞台でアニソンが歌えたことが、相当嬉しかったのだろう。

 そんな彼のパフォーマンスに、

「……ナルシストだね」

 実緒も納得。

 映像のネオがセンターへと戻り、最後の曲に入る前にメンバーを紹介し、一人ずつパフォーマンスを行う。

 健斗のドラム、みちるのギターと続き、

「さあ、ここからが見どころだよ」

 なぜかネオのテンションが高くなる。そりゃあそうだ。まさかあの男がこんなになるとは思いもしなかったのだから。

『ベース、巧!』

 すると、巧はステージのギリギリまで前進し、目の前にいる女子たちに己のベーステクを見せつける。そして、ベースを高く上げ、激しくかきならす。

 一人だけスポットライトに当たっているせいか、生まれつき持っているそのイケメンな容姿が、女子たちの目に留(と)まってしまい、『キャア――――ッ!』と叫ぶ。

 そんな汗を散らして一生懸命ベースをひいている輝くイケメンのワンマンステージに――見たこともない一面に、ネオたちは目も、身体も止まってしまう。

 ――コイツ、ステージに立つと性格変わるんだ……。

 プロのアーティストの何人かは持っている二面性キャラが、すぐ近くにいたとは。

「か、かっこいい……」

 実緒も思わず見とれてしまう。

「すごいでしょ。こいつ、普段は全然喋らないのよ。イケメンでもたいしたことないなーと思ってたけど、ライブになるとまさかここまで変わるなんて……」

 ほんと、いつでもこのキャラでいてほしいと思う。

「この子、すごい人気ありそうだよね」

 と実緒。ネオは頷き、

「うん。ライブが終わった後、わたしたちが楽屋が出てきた瞬間、タッくん――巧のことね、彼に会うために女の子たちが待っていたんだよ。それがすごくてさ、100人くらいいたと思うよ。『巧様――――っ!!』って囲んじゃって。アマチュアバンドでは異例だよ。まあ、党の本人はスイッチオフしちゃったからものすごく動揺してたけどね。あーあ、助けるのに骨が折れたわ」

 トントンと肩を叩くネオに、実緒は苦笑いを浮かべる。

「まあ、あいつのおかげで、わたしたちも名が売れそうだし、良いことづくめよ。わたしも頑張らないとね。じゃあ、ラストの曲に入るわよ! 実緒に一番聞いてほしいオリジナル曲よ」

 巧のパフォーマンスが終わり、

『それじゃあ、行くわよ! これがラストの曲、run through(ラン スロー)!』

 4人にライトが照らし出される。みちるのギターから入り、ネオが歌い始める!




『今日もやるせない 中途半端な生活

 陰口ばかり気にしているよ

 分かっているのに 心はどしゃぶりの雨

 そんな自分が大っ嫌い



 こんな想いをしているのはわたしだけ?

 テヲニギッテクレマセンカ



 さあ行こう 立ち上がろう

 誰もが苦しむ その未来(さき)へ

 立ち向かう壁は同じさ

 理想に向かって ぶっこわそう

 夢に向かってrun through!



 「でもやっぱり……」と耳を塞(ふさ)ぎこむわたし

 足もとまってしまったよ

 殻が破れず ビジョンが見えない

 そんな自分が大っ嫌い



 わたしに未来を選ぶ権利はあるの?

 オシエテクレマセンカ



 さあ行こう 前を見よう

 だれだってあるさ そんな不安

 知らない自分に会いに行こう

 みんな一緒さ 熱い鼓動(こどう)をさらけ出そう

 新しい自分へ run through!』



 間奏に入り、みちると巧が前に出て力強くかき鳴らす。ギターとベースの圧倒的なパワーに、実緒は自分が前に押されているような感覚になる。未来の自分に向かって。

 間奏が終わりに差し掛かり、ネオが再び前に出る。



『光をその手につかむまで 走りつづけろ

 果てなき道に進むのは一人じゃない

 だから……



 さあ行こう 立ち上がろう

 誰もが苦しむ その未来(さき)へ

 立ち向かう壁は同じさ

 理想に向かって ぶっこわそう



 さあ行こう 前を見よう

 だれだってあるさ そんな不安

 知らない自分に会いに行こう

 みんな一緒さ 熱い鼓動(こどう)をさらけ出そう



 夢に向かって

 新しい自分へ

 空に向かって

 run run run through!』



 ネオが最後までしっかりと歌い上げ、フィナーレへと向かう。曲の終わりにドラム、ベース、ギターが狂乱的にまで音をかき鳴らす。両手を突き上げたネオに習って、客席も突き上げ『わああ――――――っ』と大音声に負けじと精一杯シャウトする。

『みんな―――っ、今日はありがと―――――う!』

 マイクを両手で強く握りしめ、ネオは振り絞った声で感謝の言葉を伝える。そして、再び両手を突き上げ、三人とアイコンタクトで意思疎通を交わす。

 音のタイミングに合わせ、勢いよく両手を振り下ろした瞬間、



 ドオ――――――――――――――ン!



 ――ネオたちのステージが幕を下ろした。

『ワアア―――――――っ!』

 観客の歓声と拍手が止まぬそのステージに、実緒はずっと見ていた。

 ネオたちが輝いた、その舞台を。


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