新・永山あゆむの小さな工房 タイトル

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序章:希望となるために
第1話:動き出す心(2)
<登場人物>

エイジ・ハセガワ(18)(9)男性。主人公。
エミリー・ミチヅキ(18)女性。ヒロイン。エイジの幼なじみ・アイドル歌手。通称エミー。
ブリーゼ・オイサキ(28)女性。国際特秘遂行警備組織“影星”所属の団員。

友達A
友達B
黒服の女A
黒服の女B



〇同国・同首都 フラワードーム ホール

エイジ「ゴホッ……ゴホッ、な、なんだ!?」

 エイジ、煙を吸い込まないように手で口を押える。
 視界は煙で充満しており、周りがよく見えない。

女A「きゃああああっ!」

男C「うわあああっ!」

エイジ「な、何が起こって」

 エイジの目の前に紫色の鋭い針が襲ってくる。

エイジ「おわあっ!」

 エイジ、瞬間的に上体を逸らしてかわすが、尻餅をつく。
 濃い煙がだんだん薄くなり、襲ってた影が見えてくる。

エイジ「!?」

 眼前には、地面を這いずる、全身紫色で、人のような形をした奇妙な魔物――奪心(シェル)がいた。

エイジ「な、なんだよ、コイツ」

 エイジ、左の腰のあたりに手を伸ばす。
エイジ「げ、剣を持ってきてなかったんだ」

男D「ぐはあっ!」

エイジ「!」

 同じ形をした奪心(シェル)が、別の席にいる男の心臓を貫き、壁に勢いよく放り投げる。
 悲鳴をあげる観客たち。すぐさまホールから逃げ出す。

男E「な、なんなんだこいつらは!?」

女B「護星女(ルーラー)が浄化したんじゃなかったの!?」

エイジ「ルーラー?」

 ホールの出入り口の前で、地面から次々と奪心(シェル)が出てきて、観客たちの逃げ道を塞ぐ。
 奪心(シェル)の手が、針のように変形する。
 それが伸びていき、次々と人を突き刺し、客席を破壊する。

エイジ「! うそ、だろ」

 悲惨な現場を目の当たりにしたエイジは、立ち上がることができない。
 目の前にいる魔物の手が鋭い針のような形に変形する。
 エイジの心臓付近向かってに伸びていく。

エイジ「うわああああっ!」

 目をつぶるエイジ。

エイジ「……え」

 見上げるエイジ。

エイジ「!」

 奪心(シェル)が横真っ二つに引き裂かれている。

奪心(シェル)「ギィアアアアアア!」

 奪心(シェル)、悲鳴とともに砂のような紫の粒子となり、爆散する。
 エイジ、目が丸くなり、言葉が出ない。

ブリーゼ「無事?」

エイジ「!」

 右側にある人の足を見つめ、そこから見上げるエイジ。そこにはブリーゼがいる。

エイジ「あ、あんたは……」

 また次々と地面から魔物がわき、囲まれる。

エイジ「うわあああ!」

ブリーゼ「奪心(シェル)ふぜいが」

エイジ「シェル……?」

 ブリーゼ、エイジをちらっと見下ろし、

ブリーゼ「……仕方ないわね」

 ブリーゼ、前に出る。

エイジ「あっ、おい! 危ないぞ!」

ブリーゼ「心配無用よ」

 ブリーゼ、左手につけている黒いひし形の宝石のようなものが埋め込まれたグローブを敵に見せ、そこを右手で押さえる。

ブリーゼ「光子解放(マナ・グリッター)!」

 ブリーゼのグローブが緑色に煌めき、その輝きが彼女のブーツに纏(まと)う。

ブリーゼ「断ち斬れ! 裂砕刃(れっさいじん)!」

 ブリーゼが蹴り上げた瞬間、緑色の真空刃が魔物を斬り裂き、消えていく。

エイジ「……」

 エイジ、口が開いたままになる。

ブリーゼ「このままじっとしてなさい。こいつらはあたしが、裂く!」

 ブリーゼ、勢いよくジャンプ。ブーツが緑色に発光して、普通の人間の跳躍以上の高さまで達する。

エイジ「!」

ブリーゼ「はあああああっ!」

 空中で、真空刃を連続で繰り出すブリーゼ。瞬く間に魔物が消滅する。
 ブリーゼ、ブーツに宿された力でゆっくりと降下する。

ブリーゼ「滅(ルート)、完了(アウト)」

 ふう、と長い赤髪をバサッとするブリーゼに、目を丸くするエイジ。

エイジ「あんた、何者なんだ? それに、その力は……」

ブリーゼ「……」

 ブリーゼ、黙ってホールの出口へと出ようとする。

エミリー「きゃあああああっ!」

 エミリーの悲鳴に、ステージの方へと見やるエイジとブリーゼ。

エイジ「!……エミー!」


〇同国・同首都 フラワードーム ホール ステージ

 奪心(シェル)、エミリーをぎゅっと握り、エミリーの全身が紫色を纏う。

エミリー「あああああああああああああっ!」


〇同国・同首都 フラワードーム ホール

エイジ「!」

 エイジの瞳孔が開く。

ブリーゼ「待ちなさい!」

 エイジはブリーゼの静止を無視して、ものすごい速さでステージに向かう。


〇同国・同首都 フラワードーム ホール ステージ

エイジ「やめろおおおおおおっ!」

 ジャンプして魔物の手ごと引きちぎってエミリーを解放する。彼女を握っていた手が消滅する。

ブリーゼ「!」

 エイジの動きに目を見張るブリーゼ。

エイジ「エミー、エミー!」

 エミリーを介抱するエイジ。
 エミリー、苦しそうに、

エミリー「……エイジ、にげ、て……」

エイジ「え?」

 エミリーの胸に黒い孔(あな)がでてくる。
 そこに奪心(シェル)が入ってくる。

エミリー「ああああああああああっ!」

エイジ「!」

 エミリー、紫色に光り出し、異形な姿――紫色のロバのような形をした、どす黒い堕天使の羽を持った魔物――オスジオーネ化した。

ブリーゼ「闇魔(オスジオーネ)……!」

エイジ「……っ!」

 エイジ、エミリーの変わり果てた姿に絶句する。


〇同国・同首都 フラワードーム ホール 屋根裏

 黒服の女A、嬉しそうに、

黒服の女A「うわあー、すごーい! あの子、変態しちゃったよー!」

黒服の女B「……」


〇同国・同首都 フラワードーム ホール ステージ

エイジ「あ、悪夢……だよな……これ。そう、だよな……エミー、エミー……」

 あまりにも信じがたい状況に朦朧(もうろう)とするエイジ。
 魔物化したエミリーに突進する。

エイジ「エミ――――――――っ!」

 オスジオーネ化したエミリー、エイジに向かって、青い炎を吐く。炎を受ける直前、ブリーゼが横っ飛びしてエイジを庇う。

ブリーゼ「平気?」

エイジ「あ、ああ」

 ブリーゼ、立ち上がり、サングラスの位置を直す。
 エイジも立ち上がる。

ブリーゼ「あれは生身で戦う相手じゃない。体内の光子(マナ)が穢れて暴走した成れの果て――闇魔(オスジオーネ)化した人間には」

エイジ「オス、ジオーネ?」

ブリーゼ「光子(マナ)のことは知っているわね?」

エイジ「人間には視えない、世界を構成する光の粒子のことだろ? 俺たちの体も光子(マナ)で創られているんだっけ」

ブリーゼ「そう。だけどこの地には、それとは相反する粒子――闇子(サタン)という大地の穢れから生まれる粒子があるのよ。それは人間や魔物、この地に生きる者たちに害を与えるの。そんな粒子が、人間や魔物の中に入ったらどうなると思う?」

エイジ「(今の状況に信じられないように)……暴走、する……?」

ブリーゼ「それが闇魔(オスジオーネ)化。普段は人間の構造によって色々な魔物に変わるけど……」

 オスジオーネ化したエミリーを見つめるブリーゼ。

ブリーゼ「こんな魔人になった人間は初めてだわ。まるで、神天槍大戦(グングニル)で冥王タルタロイの配下、堕天使アスタロトじゃない。奪心(シェル)と融合したからか……?」

エイジ「え? 神天槍大戦(グングニル)って、この世界――ソルスワールを創った女神アストラとそれを防ごうとした冥王タルタロイの戦いを描いた、ただのおとぎ話じゃあ……」

ブリーゼ「事実よ。この世界に光子(マナ)と闇子(サタン)が混在していること自体が、何よりの証拠だから。他にもいくつかあるけど」

 オスジオーネ化したエミリー、エイジとブリーゼに向かって突進する。

エイジ「おわあっ!」

 なんとか避けるエイジ。ブリーゼは軽やかにかわす。

エイジ「なあ! どうすればエミーは元に戻るんだ? 何かあんだろ!?」

ブリーゼ「……ああ。せいっ!」

エイジ「(攻撃したことにびっくりして)!?」

 ブリーゼ、オスジオーネ化したエミリーに向かって真空刃を放つ。
 それを避けるオスジオーネ化したエミリー。
 エイジ、ブリーゼの肩を掴む。

エイジ「何やってんだよ!」

ブリーゼ「何って、弱らせるだけよ」

エイジ「分かってる! だけど、あいつは人間(エミー)なんだぞ!」

 ブリーゼ、冷たい表情で、

ブリーゼ「それが? 傷一つつけずに助ける方法が、アンタにはあるっていうの?」

エイジ「ない! けどな、仮に傷つけてもとに戻ったとしても、生きている保障はどこにもないんだろ!」

ブリーゼ「……そうね」

エイジ「だったら!」

 エイジ、ブリーゼの胸倉を強引に掴む。

エイジ「諦めんなよ! 傷つけずに救える方法を考えろよ! そうやって犠牲を前提に考えるから、俺は大人が大嫌いなんだよ!」

 エイジ、眉間にしわを寄せて歯軋りする。

ブリーゼ「(静かな怒りを向き出して)……若僧が、知った口でほざくなよ」

エイジ「……!」

 エイジ、ブリーゼの鋭利な目にびびり、胸倉をつかんだ手が手が放れる。

ブリーゼ「諦めないからそれを選んだのよ! 可能性をかけて! そんなちゃらんぽらんな考えで、すぐに事が進まなかったらどうするのよ!? 周りの事も考えなさい、このアホンダラ!」

 ブリーゼ、エイジの胸倉を強く掴む。

ブリーゼ「アタシはね、アンタのような口だけの人間が大嫌いなのよ! 時々の感情で言うだけ言って、人に身を委ねて何も変えようとしない『風任せ』が! どれだけの人に迷惑をかけたかもわからないでしょ!? そんな抜けがらの意志じゃ、永遠に変わらないわ! 過去も未来も、現在(いま)もね!」

エイジ「……」

 ブリーゼの言葉に、固まってしまうエイジ。
 すると、オスジオーネ化したエミリーが咆哮する。
 エイジとブリーゼ、オスジオーネ化したエミリーに顔を向ける。

ブリーゼ「長すぎたわね」

 ブリーゼ、エイジの胸倉から手が放れる。
 そして、オスジオーネ化したエミリーに向かって歩きだす。
 それをただ呆然と見つめるエイジ。

エイジ「俺のやってたことって……」


〇回想 同国・同首都 フラワードーム 楽屋

エイジ「……結局俺は、そこまでの人間なんだな」

エミリー「エイジ……」

 エミリー、悲しそうな顔でエイジを見つめる。
(※画面が光り、場面が切り替わる)

 エミリー、両手をぎゅっと握り、

エミリー「わたしの歌で、少しでもいいから、希望を持ってね」


〇同国・同首都 フラワードーム ホール ステージ

 エイジ、悔しそうに、

エイジ「くそったれ!」

 震えるほど両手を強く握るエイジ。

エイジ「(叫ぶように)待てよ!」

 ブリーゼ、後ろにいるエイジを横目で睨みつける。

エイジ「俺がいつ口だけだと言ったんだよ。俺だって、俺にだって、意志はあるんだよ! 理不尽な大人たちの世の中を、この手で変えてやりたいんだよ!」

ブリーゼ「……」

エイジ「なあ、本当に倒すしか方法はないんだよな」

ブリーゼ「二言目は言わないわ」

エイジ「なら!」

 エイジ、勢いよく足を踏み込み、一瞬でブリーゼの前へと立つ。

ブリーゼ「!?」

 ブリーゼ、前に立つエイジに驚く。

 エイジ、ブリーゼを横目で睨みつけ、

エイジ「俺が引導を渡してやるまでだ!」

ブリーゼ「(叫ぶように)待て!」

 エイジ、オスジオーネ化したエミリーに向かって走る。エイジ、黒翼から繰り出される弾を避け、顔を殴る。

エイジ「え?」

 殴った感触がないことに目を丸くするエイジ。

 オスジオーネ化したエミリー、エイジに向けて口を大きく開き、紫の光線を放つ。

 その瞬間、ブリーゼがエイジを庇う。床に転がる二人。
 光線を受け、サングラスが吹き飛び、全身が焼き焦げた痕でいっぱいのブリーゼ。

エイジ「……お、おい……」

 震える声で、ブリーゼに話しかけるエイジ。

ブリーゼ「このバカ。とんだキズを……くっ」

 青ざめた顔で、倒れているブリーゼを見下ろすエイジ。

エイジ「俺のせいだ。ごめん」

 ブリーゼ、エイジの頬を手に当てる。

ブリーゼ「闇魔(オスジオーネ)化した人間は、闇子(サタン)の塊そのもの。だから、生身の人間の攻撃は効かない。人間は普段、光子(マナ)を見ることも触ることもできないから」

エイジ「じゃあ、どうすれば、どうすればいいんだよ!? 俺に、あんたみたいな力は……!」

ブリーゼ「落ち着いて。まだ方法がないわけではないわ……」

 ブリーゼ、自分を心配する表情で見つめるエイジを見つめる。

ブリーゼ「一縷の望み、ね」

エイジ「え?」

 ブリーゼ、左手に装着しているステルラグローブを外す。

 手の甲が埋め込まれてある青く光るひし形模様が黒くなる。

ブリーゼ「これを」

 ブリーゼ、ステルラグローブをエイジに渡す。

エイジ「(不思議そうに)これは?」

ブリーゼ「闇子(サタン)で変貌したならば、こちらも光子(マナ)の力をぶつけるしかない」

エイジ「だけど、人間には光子(マナ)の力は」

ブリーゼ「そう。だからこのグローブよ。これをつけて黒いところを押して。資格があるなら、体内の光子(マナ)から創られた武器がでてくるわ。アタシがこのザマである以上、アンタに頼むしかない……口だけじゃないって証明できる?」

 真剣な目つきで見つめるブリーゼに、同じ目つきで見つめ返すエイジ。
 二人の間で少し沈黙があったあと、

エイジ「当然だ」

 エイジ、意を決して、左手にステルラグローブを装着する。
 そして立ち上がり、オスジオーネ化したエミリーを見つめる。

エイジ「俺しかいないなら、やるしかないだろ! それに、今ここで逃げたら、俺は永遠に『風任せ』だ! はああああっ!」

 手の甲の部分にある黒いひし形模様のところを押す。
 そこが朱く輝き、エイジは剣を引き抜くように右手を振り払う。
 エイジの右手には、朱色に輝く剣が握られている。

エイジ「これは……」

 朱色に輝く剣を見つめるエイジ。

ブリーゼ「やっぱり、《選星者(シュッツァー)》だったのね」

エイジ「え?」

 後ろで倒れているブリーゼに顔を向けるエイジ。

ブリーゼ「いや、こっちの話。今は、あの子を助けることに集中しなさい。気が引けるけど、あの子を屈服させない限り、元には戻せないんだから」

エイジ「わかった。やるっきゃないん……だよな……」

 オスジオーネ化したエミリーと対峙するエイジ。
 エイジ、目を瞑り、

エイジ「エミー、今、助けてやる!」

 エイジ、朱色の剣を握ったまま、オスジオーネ化したエミリーに向かって走っていく。

ブリーゼ「無闇に突っ込んだら……!」

 オスジオーネ化したエミリー、黒翼から無数の黒い弾を放つ。

ブリーゼ「避けなさい!」

エイジ「うおおおおおおっ!」

 エイジ、走りながら剣を振って防ぎ、勢いよくジャンプして、オスジオーネ化したエミリーに向かって斬りつける。
 オスジオーネ化したエミリー、エイジの攻撃を避け、翼をはためかせて空中に移動する。

エイジ「くそ……何とか地上に降ろさないと……え?」

 エイジが握っている朱色の剣が、突然、炎みたいに煌めく。

エイジ「一か八かだ。はあああああっ!」

 エイジ、勢いよく剣を床に振りおろす。すると剣から赤い光線が放たれ、空中にいるオスジオーネ化したエミリーの身体を貫く。オスジオーネ化したエミリーは、そのままステージ上に落ちていく。

ブリーゼ「今よ! グローブを、青いところをあいつに向けなさい!」

エイジ「わかった!」

 エイジ、グローブについている青いひし形模様の部分をオスジオーネ化したエミリーに向ける。
 そこから青白い光が放たれ、闇子(サタン)が弾けていく。
 エミリー、倒れた状態で元の姿に戻る。

エイジ「や、やった……」

 その場でへたり込むエイジ。
 朱色の剣は光に包まれ、グローブにある青いひし形模様の中に入っていく。

ブリーゼ「なんとかなったわね」

 ブリーゼ、へたり込むエイジのところに来る。
 エイジ、立っているブリーゼの顔を見上げる。

エイジ「もう歩けるのか?」

ブリーゼ「当然。戦いが終わってへたり込むようなヤワな身体ではないわ」

エイジ「べ、別にそんな身体じゃ……」

エイジ「あ、ああ……」

 エイジ、ステルラグローブをつけた左手を立っているブリーゼに向ける。ブリーゼ、エイジが身につけているステルラグローブを外し、自分の左手に身につける。

ブリーゼ「さて、と」

 ブリーゼ、しゃがんで眠っているエミリーの状態を確認する。

ブリーゼ「安心なさい。息はあるわ。あとは施設で治療すれば、なんとかなるわね」

エイジ「そっか。よかった」

 エイジ、ホッとする。

ブリーゼ「じゃあ、この子を抱えて」

エイジ「へ?」

ブリーゼ「立場上、すぐに立ち去るべきだけど、アンタという『予定』ができたからね」

エイジ「お、俺?」

 思わず自分に指を差すエイジ。

ブリーゼ「アタシがいる組織へ来ない? アンタには、その資格がある。未熟だけど、コレが使えたしね」

 ステルラグローブを見せるブリーゼ。

ブリーゼ「それに、アンタが望んでいるものも」

エイジ「俺が望んでいるもの?」

ブリーゼ「そう、アイツらのような悪い大人から救う力が欲しいなら、悪くない話でしょ。このチャンス、生かすも殺すもアンタ次第よ」

エイジ「俺、次第……」

 エイジ、しばらく黙り、目を閉じる。彼の頭に浮かぶのは、口を大きく開けて笑ているエミリーの姿。
 エイジ、目を開け、決意を固めた目つきで、

エイジ「行く。この先に俺が求める道があるのなら、俺の信念を貫いてやるまでだ! 歪んだ大人たちの世界を変えるために、とことんあんたについて行ってやる!」

 ブリーゼ、フッ、とほくそ笑み、

ブリーゼ「わかったわ。なら、ついてきなさい……ああ、自己紹介がまだだったわね。ブリーゼ・オイサキよ。よろしく」

 ブリーゼ、ホールの屋根裏を見上げる。

ブリーゼ「……」

 そして、黙ってホールの出入り口の方へと歩くブリーゼ。

エイジ「あ、おい」

ブリーゼ「言ったでしょ。初任務をこなしなさい」

 ブリーゼ、歩きながら右手を挙げ、先にステージから降りる。

エイジ「あ……」

 エイジ、少しの時間眠っているエミリーを見つめた後、立ち上がる。そして彼女をお姫様だっこする。

エイジ「エミー……俺、今度こそやってやるから」

 エミリーを抱え、ブリーゼの後をついていくエイジ。


〇同国・同首都 フラワードーム ホール 屋根裏

黒服の女A「あららー、あの子すごいねー、ただの人間なのに光子(マナ)を使えるなんてー」

黒服の女B「新たな“影星(かげぼし)”のご登場か。面白くなりそうだ」

黒服の女A「でもぉー、とりあえずー、これは成功ってとこですかー?」

黒服の女B「ああ。では、これにて我らの計画、『断罪の一撃(メテオ・ストライク)』の始動だ! 歪んだこの地を、正すために!」


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