新・永山あゆむの小さな工房 タイトル

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序章:希望となるために
第2話:影星(かげぼし)(2)
<登場人物>

エイジ・ハセガワ(18)(10)男性。主人公。
エミリー・ミチヅキ(18)(10)女性。ヒロイン。エイジの幼なじみでアイドル歌手。通称エミー
ブリーゼ・オイサキ(28)女性。国際特秘遂行警備組織“影星”所属の団員。
フリッツ・エダサワ(33)男性。国際特秘遂行警備組織“影星”ミザール支部支部長。
メルヴィン・シバサキ(32)男性。国際特秘遂行警備組織“影星”ミザール支部治療班班長。

受付嬢
アロガン・オオクボ(37)男性。ミザール国バナーレ村の領主。
コリーヌ・オオクボ(34)女性。アロガンの妻。
トマ・オオクボ(10)男性。アガロンとコリーヌの息子。
酒場の店主



〇ミザール国 国際特秘遂行警備組織“影星(エクリプス)”ミザール支部 支部長室

ナレーション(以下N)「支部長室」

 部屋の中心で、机に山積みにされている報告書をチェックしている黒髪の男、フリッツ・エダサワ(33)がだらけた格好で書類を見ている。

 左の頬には、直線の傷あとが残っている。

フリッツ「はあ、なんでこんなどーでもいいことをチェックしないといけねーんだよ。はああ、刺激が欲しーな刺激が……例えば目の前に凛としたオレ好みの女性が現れて……」

 すると、急に目の前のドアが開く。

フリッツ「……え、マジかよ……こんなくそつまんねぇ激務に悩んでいる、そんなオレの為に……!」

ブリーゼ「(声のみ)何バカなこと言ってんのよ」

 冷めた目をしたブリーゼが中へと入ってくる。その後ろにはエイジがいる。
 フリッツ、がっかりして肩を落とし、

フリッツ「なんだ、おまえかよー……」

 期待が外れて、机にもたれかかるフリッツ。

ブリーゼ「ご期待に添えなくて悪かったわね。それとも、書類を吹き飛ばしてほしいのかしら」

フリッツ「バカ、冗談だっつーの! 勘弁してくれよー」

ブリーゼ「なら、全うしなさいよね。ホント、お目付け役って骨が折れるわ……折ってやろうかしら」

 冗談じゃない目つきでフリッツを見つめるブリーゼ。

フリッツ「冗談の域が超えてるぞ。副支部長殿」

ブリーゼ「ならやることね。ただでさえ長官から遅れてるって釘を刺されているのよ。支部長としての威厳を保ちなさい」

フリッツ「わーってるよ。あー、身体、動かしてぇなー」

 ため息をつくブリーゼ。
 ブリーゼの後ろにいるエイジ。ブリーゼの服を引っ張る。

ブリーゼ「何?」

エイジ「ブリーゼって、副支部長なのか?」

ブリーゼ「肩書きだけね。じゃないと、事務処理すらできない脳筋とつきあうことはないわ」

フリッツ「ひでーなあ。こんな処理、やる気があればパッパとだな」

ブリーゼ「なら、今ここで示しなさいよ」

 フリッツ、即答で、

フリッツ「できません」

エイジ「……」

 唖然とするエイジ。

 ブリーゼ、髪をかきながら呆れたように、

ブリーゼ「あのねえ。これじゃあ、コイツに合わせる顔がないじゃない」

 後ろにいるエイジに指をさすブリーゼ。

フリッツ「ん? さっきから気になっていたが、君は……?」

ブリーゼ「私が見つけた《選星者(シュッツァー)》よ。未熟ではあるけど」

フリッツ「……」

エイジ「み、未熟は余計だ!」

ブリーゼ「あら、本当のことを言ったまでだけど」

 ブリーゼに向かって、ふて腐れた顔を浮かべるエイジ。
 それを余所に、固まるフリッツ。

フリッツ「え? 《選星者(シュッツァー)》? マジ……?」

ブリーゼ「連絡したでしょ。二言目は言わないわ。候補者よ、この部隊のね」

フリッツ「……」

   口をパクパクするフリッツ。

フリッツ「バカ野郎! なんでそれを言わねーんだよ!」

 急に、机にある書類や服装を整えるフリッツ。

ブリーゼ「忘れている貴方が悪い」

フリッツ「あーもう! ちょっと待ってろ!」

 ドタバタと片づけるフリッツ。
 数分後、机の上の書類もキレイに片づけられ、フリッツは堂々とした態度で、机に両肘をつき、鼻の前で両手を組んでいる。
 そして、真面目な表情で、

フリッツ「コホン、では、改めて。ようこそ、国際特秘遂行警備組織“影星(エクリプス)”ミザール支部へ」

 ブリーゼ、呆れたように、

ブリーゼ「どこのアニメのマネをしているのよ。説得力ないし、使徒なんてでてこないわよ」

フリッツ「いいんだよ。少しは威厳を出してだな……」

ブリーゼ「もう失っているけど」

 エイジ、ブリーゼの一言に苦笑いの表情を浮かべる。
 フリッツ、不満そうに、

フリッツ「ちっ、可愛げがねーな。(エイジの唖然とした顔に反応して)ああ、すまん。俺はこの地区の支部長を担当してる、フリッツ・エダサワだ。よろしくな」

 フリッツ、エイジに手を伸ばし、握手を要求する。

エイジ「は、はい。エイジ・ハセガワです……」

 エイジ、フリッツと握手をする。

フリッツ「エイジ、か。まあ、今日は情けないところをお見せして済まなかったな。普段は真面目に仕事をしているから、まあ、なんだ、その、決してあやしい者ではないから、な!」

 後頭部の髪をかきながら苦笑を浮かべるフリッツ。
 エイジもフリッツに苦笑を浮かべる。

ブリーゼ「さっさと本題に入りなさい」

フリッツ「(ブリーゼに向かって)わーってるっつーの! (エイジに向かって)それで、エイジ、ブリーゼはおまえを《選星者(シュッツァー)》として、ここに連れてきたみたいだが」

エイジ「はい。自分がしたいことができると言われてついてきたのですが。ていうか、《選星者(シュッツァー)》ってなんスか?」

フリッツ「そうだな。じゃあ、実際にここで見せてもらおうか」

ブリーゼ「ちゃんと用意しているでしょうね?」

フリッツ「あたりまえだろ。いちいち一言入れるな!」

 フリッツ、机の中からブリーゼが装着しているものと同じグローブを取り出し、エイジに見せる。

 手の甲の部分には、ブリーゼのものと同じように、手の甲の部分に黒いひし形模様の鉱石が埋め込まれている。

エイジ「これは、ブリーゼがつけているのと同じ……」
フリッツ「ステルラグローブと言ってな、光子(マナ)の力を少しでも持っている人間は……」

 フリッツ、立ち上がり、左手にステルラグローブをはめる。

エイジ「!」

 フリッツのステルラグローブの手の甲の部分に埋め込まれたひし形の黒い鉱石がダークオレンジ色に輝く。
 フリッツ、左手にはめたステルラグローブにある、ダークオレンジに輝くひし形の鉱石をエイジに見せながら、

フリッツ「とまあ、装備者によってここの部分が色が変わるんだ。つまり俺たちのように、少しでも光子(マナ)を操る力を持つ一般人――影星(エクリプス)の団員候補を《選星者(シュッツァー)》と呼んでるわけ」

エイジ「それが、俺の眠っている力……?」

フリッツ「ブリーゼのグローブを借りて、そこから武器を取り出しただろ」

エイジ「あ、はい」

フリッツ「じゃあ、ちょっとやってみ」

 フリッツ、左手にはめたステルラグローブをエイジに投げる。
 それを受け取るエイジ。

エイジ「は、はあ……」

 エイジ、緊張しながらゆっくりと左手にステルラグローブをはめる。
 ステルラグローブが光り出す。

エイジ「うおっ! また……」

 ステルラグローブの手の甲にある黒い鉱石が朱色に変化する。
 それを後ろで涼しげに見つめるブリーゼ。
 グローブのおかげで朱く輝くエイジを眩しそうに、右手で光を遮りながら彼を見つめるフリッツ。

フリッツ「おーすげー色。汗が出そうだ。じゃあ、輝いてるトコを押してみ」

エイジ「は、はいっ」

 エイジ、慌ててステルラグローブの手の甲にある朱色に輝く鉱石を押してみる。
 すると右手が朱く輝き、剣を引き抜くように右手を振り払うと、朱く輝く剣の形をしたものがエイジの右手に握られ、それが、前に戦ったときと同じ模様の剣へと変わる。

エイジ「(剣を再び取り出せたことに呆然として)また、出てきた」

フリッツ「(剣をまじまじと見ながら)ほぉー、こりゃまた立派なモンが取り出せたなあ。炎の神剣《フランベルジュ》みてえだ」

ブリーゼ「大層な名前ね。そっくりだけど」

エイジ「フランベルジュ……アストラが創った四聖剣のひとつだっけ?」

フリッツ「よく知っているな……とまあ、こんな感じにだな、おまえに眠っている光子(マナ)の力と身体能力に応じて、武器が出てくるというわけだ。この武器をオレたちは星使武器(エトアルム)と呼んでいる。この武器、どんなヤツに対抗できたか覚えているか?」

エイジ「確か、闇魔(オスジオーネ)、だっけ? エミーがいきなり巨大な魔物に突然変異した」

 フリッツ、指を鳴らして、

フリッツ「そう。生身では対抗できなかっただろ? なんせ人間の体内に闇子(サタン)が浸食した塊だからな。だからその塊に対抗するものは相反する光の塊――オレたちの世界を構成している光子(マナ)ってわけさ。星使武器(エトアルム)には、その力が宿っているわけ。その武器を使って闇子(サタン)に蝕まれた人間や魔物を祓うためにできた組織が影星(オレたち)さ。人数少ない組織だから、おまえのように候補者を探すのも仕事だけどな」

エイジ「影星(エクリプス)……星使武器(エトアルム)……俺のチカラ……」

 右手に握っている、禍々しく輝く剣を見つめるエイジ。

フリッツ「さて、おれとしてはだな、『選ばれし者』っていう大層なモンじゃないが、そんな剣を引き出せるチカラがあるなら、それを活かすってのも悪くはないと思うぜ。っていうか、ブリーゼが連れてきたんだから、それなりの見込みはあるってことだろうな」

エイジ「え?」

 フリッツ、ブリーゼを指さしながら、

フリッツ「だってあいつ、全然連れてこねーもん。(ブリーゼに向かって)初めてだよな?」

ブリーゼ「(話を逸らすように)さあ。貴方が忘れているだけじゃないの。それにアタシの場合、現場に候補者がいたとしても、半端者は除外してるだけだから」

 視界からエイジとフリッツを外すブリーゼ。

フリッツ「やれやれだな。(エイジの顔を見つめて)それで、おまえはこれからどうしたい、エイジ?」

エイジ「え? ど、どうしたいって言われても……」

 動揺するエイジ。

フリッツ「おまえに与えられた選択は、やるか、やらないかの二択だ。一般人だし、無理にとは言わない。だが、まあ、ブリーゼが連れてきたんだ。チカラを使い、ここで可能性を見出すのも悪くない話だと思うぜ。一般人が飛び込むには、厳しい道のりだがな」

エイジ「可能性……」

 後ろを振り返り、ブリーゼを見つめるエイジ。
 エイジを冷静な目で見つめるブリーゼ。
 エイジ、フリッツの方へと向き直して、

エイジ「ここに入れば、色々なところに行って、闇子(サタン)に苦しんでいる人々を助けに行くんですよね?」

フリッツ「ああ。闇子(サタン)で汚れた場所、人、魔物……それに関わる場所すべてにだな。場合によっては、危険なところにも行くな」

 エイジ、しばらく考えて、

エイジ「……俺は、今まで自分で何かをやろうとしたことはありませんでした。負けず嫌いで、対抗心は強いのに、自分の居場所や環境を変えるのは他人任せ。他人に迷惑をかけてばっかりで、何も変えようとはしない。故郷の村でも都会でも、ずっと理不尽で傲慢な大人たちにコキ使われていたのに……あと一歩が踏み出せない。その一歩をこのチカラで、俺みたいに、苦しんでいる人たちがいるのなら……」

 エミリーの笑顔が脳裏に浮かぶエイジ。
 エイジ、手を震えるほどぎゅっと握りしめて、

エイジ「大切な人を守れるのなら、俺はここで、俺と言う『可能性』を見出したい!」

 真剣な目つきでフリッツを見つめるエイジ。

ブリーゼ「フ……」

 ブリーゼ、エイジを後ろでひそかに笑みをこぼす。

エイジ「だから、お願いします! ここで働かせてください!」

 フリッツに向かって礼をするエイジ。

フリッツ「あっついねー。でも、そーいうの嫌いじゃないぜ。なら……」

 フリッツ、机の中にある、大きな赤いボタンのみのリモコンを取り出す。

フリッツ「この組織に相応しいか、さっそく試させてもらおうじゃないか。ほいっと!」

 フリッツ、リモコンについている大きな赤いボタンを押す。
 エイジの足元の床が開く。

エイジ「え……うわあああああああーっ!!」

 地下へとまっさかさまに落ちていくエイジ。
 ブリーゼ、少し驚くも、呆れたように、

ブリーゼ「い、いつの間にこんなものを……」

フリッツ「フッ。試験には、落とし穴がつきものだぜ」

 顎に手を当て、格好をつけるフリッツ。



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