〇ミザール国 国際特秘遂行警備組織“影星(エクリプス)”ミザール支部 支部長室
部屋全体が赤く点滅する支部長室(施設内全体が赤く点滅している)。
部屋全体がモヤに包まれている。
天井からはアナウンスの声が。
アナウンス(声のみ)「緊急事態、緊急事態! 未確認物体侵入! 未確認物体侵入! 直ちに掃討せよ! 繰り返す! 未確認物体侵入! 直ちに掃討せよ!」
エイジ・ハセガワ(18)、エミリー・ミチヅキ(18)、ブリーゼ・オイサキ(28)、フリッツ・エダサワ(33)、メルヴィン・シバサキ(32)の目の前に、地面を這いつくばる人の形をした、闇子(サタン)から生まれた魔物――巨大な奪心(シェル)がいる。
エイジ・エミリー「!」
エミリー、エイジの左腕を掴んでいる。
ブリーゼ「奪心(シェル)!」
奪心(シェル)、目の前にいるエイジたちを見下ろす。
メルヴィン「……マジかよ……でけぇな……」
奪心(シェル)を見上げ、後ずさりをするメルヴィン。
エイジ、奪心(シェル)を見上げたまま、
エイジ「こいつは、あのときの……」
フラワードームで奪心(シェル)たちが現れたときのことが脳裏に浮かぶエイジ。
ブリーゼ、力強く左手に装備しているステルラグローブの甲の部分にある緑色に輝く鉱石を押す。
ブリーゼ「光子解放(マナ・グリッター)!!」
ブリーゼの靴が緑色に輝く。
ブリーゼ「裂砕刃(れっさいじん)!」
ブリーゼ、勢いよく右足を蹴り上げて、緑色の真空刃を発生させる。
緑色の真空刃が奪心(シェル)に直撃する。
奪心(シェル)A「グワアアアアアアッ!」
奪心(シェル)、幾千の紫の粒子――闇子(サタン)の粒子となって四散する。
エイジ「なんでこいつがここに……?」
ブリーゼ「詮索はあとよ。フリッツ!」
ブリーゼ、フリッツの方へと顔を向ける。
フリッツ、頷き、
フリッツ「ああ。みんな、急いでここから出るぞ! エイジ!」
エイジ「は、はい」
フリッツ、エミリーを一瞥し、エイジに顔を向け、
フリッツ「エミリーの護衛はおまえがやれ」
エミリー「!?」
エイジ「お、俺がですか!?」
慄くエイジ。
フリッツ「他に誰がいるんだ。この子を守ってやるのはおまえだろ?」
隣にいるエミリーを一瞥するエイジ。
エイジ、緊張感のある真剣な表情で、
エイジ「……わかりました」
フリッツ「うっし!じゃあ、行くぞ」
支部長室から急いで出ていくフリッツ、メルヴィン、ブリーゼ
エミリー、立ち尽くしているエイジの左腕を軽く引っ張り、優しい口調で、
エミリー「エイジ」
エイジ「あ、ああ。ごめん。行こう、エミー」
フリッツたちの後を追いかけるフリッツ、エミリー。
〇ミザール国 国際特秘遂行警備組織“影星(エクリプス)”ミザール支部 廊下
支部長室を出て、フリッツたちを追いかけるエイジとエミリー。
フリッツたちに追いつくが、
エイジ「これは……!」
奪心(シェル)たちが行く手を阻んでいることに息を呑むエイジ。
メルヴィン、呆れたような態度で、
メルヴィン「はぁ、めんどくせぇな……」
エイジ「なあ、こいつら、奪心(シェル)って一体何なんだよ」
ブリーゼ「奪心(シェル)は、闇子(サタン)の粒子が集まってできた、魂の抜け殻みたいなものよ。でも」
フリッツ「……ああ。こんなにうじゃうじゃ出てくんのは想定外だ。本来なら、闇子(サタン)が濃い場所でしか現れないし、この辺りは闇子(サタン)が溢れている場所はないはずだ」
エイジ「じゃあ、このモヤはフラワードームのときのように、人為的(じんいてき)に……?」
ブリーゼ「確証はもてないけどね。まあ、このモヤが闇子(サタン)を撒布(さっぷ)しているのは間違いないけど。とりあえず今は抜け出さないと……フン!」
ブリーゼ、右足から裂砕刃(れっさいじん)を繰り出し、緑色の真空刃で奪心(シェル)を倒す。
闇子(サタン)の粒子となって四散する奪心(シェル)。
フリッツ、後ろにいるエイジに、
フリッツ「エイジ! おまえも応戦しろ」
エイジ「は、はい!」
エイジ、力強く左手に装備しているステルラグローブの甲の部分にある朱くに輝く鉱石を押す。
エイジ「光子解放(マナ・グリッター)!」
エイジの右手に、光子(マナ)の力で生まれた剣――フランベルジュが握られる。
エイジ「らああああっ!」
エイジ、奪心(シェル)に向かって勢いよくジャンプし、縦斬りで一刀両断にする。
闇子(サタン)の粒子となって四散する奪心(シェル)。
エイジ「ふう……」
一息つくエイジ。
しかし、奪心(シェル)がどんどん出てくる。
エミリー「ひいっ!」
悲鳴をあげるエミリー。
エミリーの隣にいるメルヴィン、頭をポリポリかきながら、
メルヴィン「おいおい、これじゃあラチがないぜ」
フリッツ「……ったく、しゃーねーなー」
フリッツ、エイジとブリーゼの前に立つ。
フリッツ「ここはオレがやってやる。光子解放(マナ・グリッター)!」
フリッツ、左手に装備しているステルラグローブの甲の部分にある朱くに輝く鉱石を押し、紅く煌めく片手剣を右手に握る。
フリッツ、剣を両手で持ち、それを頭の上に掲げ、目を閉じる。
数秒間を置き、目を開けた瞬間、
フリッツ「はあああっ! 壁炎衝(へきえんしょう)!」
剣を床に叩きつけた瞬間、フロアの高さの真ん中を占めるほどの炎の壁が奪心(シェル)たちに向かって、地を這っていく。
奪心(シェル)は次々と消滅し、エイジたちの視線の先には、次のフロアに進む扉が見える。
フリッツ、得意気に、
フリッツ「ふっ、こんくらい朝飯前……」
ブリーゼ「さっさと行くわよ!」
ブリーゼを筆頭にエイジ、エミリー、メルヴィンの順に奥にある扉へと急ぐ。
フリッツ、焦って、
フリッツ「お、おいっ! 無視かよ! す、少しはキメさせろよ――――っ!」
フリッツ、慌ててエイジたちの後を追いかける。
〇ミザール国 国際特秘遂行警備組織“影星(エクリプス)” ミザール支部 廊下 T字路前
扉を開け、赤く点滅する廊下を進むエイジたち。
すると、T字路に差し掛かる。
右にも左にも奪心(シェル)たちがうようよと徘徊している。
ブリーゼ「二手に分かれて助け出すしかないわね」
フリッツ「ああ。エイジたちと一緒に頼めるか?」
ブリーゼ「当然」
フリッツ「頼むぞ。……エイジ!」
後ろにいるエイジを呼ぶフリッツ。
エイジ「はい!」
フリッツ「こっからは二手に分かれて行動する。奪心(シェル)に襲われている団員達の安全を確保しつつ、施設内を脱出しろ。オレとメルは左手に、おまえはエミリーを連れて、ブリーゼと一緒に右手に行ってくれ。この施設内で奪心(あいつら)と戦えるのはオレたち4人だけだ。頼むぞ」
エイジ「わかりました」
エミリー「え? 4人って、メルヴィンさん……」
メルヴィン、面倒くさそうに、
メルヴィン「ああ。かったりぃけどな」
メルヴィン、両手の関節を鳴らして、左の袖をまくる。
左手に装着しているステルラグローブが見え、右手でグローブの甲の部分にある青く光る鉱石を押すと、水のように透明感のある青い弓が現れる。
メルヴィン「と、いうわけだ。この弓は引く動作をすりゃあ、水の力を含んだ光子(マナ)が矢にかわって発射する仕組みだ。このようにな」
メルヴィン、左側にいる奪心(シェル)に狙いを定めて弓を引く動作をする。
メルヴィンの右手に、青く光る矢が現れる。
発射すると、矢が渦を巻くように奪心(シェル)に向かって飛んでいき、命中した瞬間、闇子(サタン)の粒子となって四散する。
メルヴィン「まっ、心配ご無用ってことだ」
フリッツ「腕は鈍ってねぇようだな」
フリッツ、メルヴィンの左肩を叩く。
フリッツ「よし、みんな頼むぞ!」
エイジ、頷く。
ブリーゼ、左側の通路を見ながら戦闘態勢になる。
メルヴィン、弓を持ったまま右側の通路を見つめる。
エミリー、左側の通路を見ながら走る姿勢になる。
フリッツ、右側の通路を見つめ、笑みをこぼし、
フリッツ「行動開始(ミッションスタート!)」
フリッツとメルヴィンは左側の通路へ、エイジ、エミリー、ブリーゼは右側の通路へと走っていく。
〇ミザール国 国際特秘遂行警備組織“影星(エクリプス)” ミザール支部 廊下
廊下を走っていくエイジ、エミリー、ブリーゼ。
すると、4体の奪心(シェル)たちがその行く手を阻む。
エイジ「ったく、一体何匹いるんだよ!」
ブリーゼ「来るわよ! 避けなさい!」
奪心(シェル)、エイジたちに向かって右手を伸ばし床をたたきつける。
エイジ「うおっと!」
エミリー「わぁっ!」
走りながら全身を右側に傾けて避けるエイジとエミリー、ブリーゼは飛び上がる。
ブリーゼ、全身をひねり、緑色のオーラ――風を纏い、右足を伸ばして4体いる奪心(シェル)たちの中心に向かって、
ブリーゼ「吹き飛べ! 烈風震(れっぷうしん)!」
ブリーゼが着地した瞬間、風が巻き起こり、4体の奪心(シェル)が吹き飛び、闇子(サタン)の粒子へと還る。
ブリーゼ「!」
ブリーゼ、前方からくる奪心(シェル)の手に気づき、後方へとジャンプする。
奪心(シェル)の手が床に叩きつける。その場所の床に、ヒビが生えている。
前方に二体の奪心(シェル)が現れる。
後方に下がるブリーゼ、後方にジャンプしながら、後ろにいるエイジを一瞥し、
ブリーゼ「頼むわよ、新人!」
エイジ「ああ!」
エイジ、奪心(シェル)に向かって走る。
エミリー、憂(うれ)いな表情でエイジの背中を見つめ、心の中で、
エミリー「エイジ……!」
エイジ「うおおおおっ!」
手を叩きつけて体勢が整わない奪心(シェル)に向かって、左わき腹から右に向かって薙ぎ払うエイジ。
奪心(シェル)B「ギィアアアアアア!」
奪心(シェル)、悲鳴を挙げ、闇子(サタン)の粒子となって四散する。
エイジ「よし!」
ブリーゼ「油断しないで!」
エイジ「えっ?」
後ろから聞こえるブリーゼの声に反応するエイジ。
もう一体の奪心(シェル)がエイジに向かって、右手で払い攻撃をする。
エイジ「うおおっと!」
エイジ、当たる寸前のところでしゃがんで躱(かわ)す。
ブリーゼ「今よ!」
エイジ、小さく跳躍し、
エイジ「くらえ! 衝火(しょうか)!」
エイジ、剣を床に叩きつける。その衝撃から発生した朱い剣戟(けんげき)が奪心(シェル)を貫く。
闇子(サタン)の粒子となって四散する奪心(シェル)。
エイジ「ふう……」
額の汗を拭うエイジ。
エミリー、エイジの右側に立ち、
エミリー「エイジ、お疲れ様」
エイジ「ああ」
ブリーゼ、エイジの左肩に手をのせ、
ブリーゼ「ふう、と言いたいのはこっちよ。ハラハラさせるわね。まあいいわ、早く団員たち(みんな)を助けるわよ」
エイジ「了解!」
再び廊下を駆け抜けるエイジたち。
団員A(女性)「キャアアアア!」
女性の悲鳴が聞こえ、反応する二人。
エイジ「今の声……!」
ブリーゼ「急ぐわよ!」
途中、所々にある部屋を片っ端から入り、奪心(シェル)の被害を受けている団員達を助けるエイジたち。
エミリー、奪心(シェル)の攻撃を受けた団員を献身的に支える。
部屋に入って奪心(シェル)たちを足技で倒すブリーゼ、剣で奪心(シェル)を薙ぎ払うエイジ。
助け出した団員たちを引き連れて外へと目指すエイジたち。
エイジ「これで全員?」
ブリーゼ「ええ。外へ出るわよ」
各部屋の団員達を引き連れ、外へと出ていくエイジたち。
〇ミザール国 国際特秘遂行警備組織“影星(エクリプス)” ミザール支部 入口
団員達を引き連れて施設の外へと出たエイジたち。
周りはうっそうとした木々に囲まれている。
ブリーゼ「とりあえず脱出できたわね」
エイジ「ああ。後はフリッツさんたちの連絡を待つ……」
謎の声・女性A「それはどうかな?」
エイジ「え?」
どこからともなく声が聞こえる女性の声に、慄(おのの)くエイジ。
謎の声・女性B「キャハハハハ。パーティーはこれからだよぉー。もっと楽しもうよぉー!」
ブリーゼ「くっ……!」
ブリーゼ、眉間にしわ寄せ、歯を強く噛みしめて身構える。
エイジ「どこにいるんだ……」
周囲を見回すエイジ。
施設の周囲にある木々たちが、風で靡(なび)く。
エイジの左わき腹をつかみ、彼にくっついて息を呑むエミリー。
謎の声・女性A「見せてもらおうか。おまえたちが使う光子(マナ)の力を!」
エイジ・ブリーゼ・エミリー「!」
エイジたちの目の前に突然、濃い紫色の円陣が現れ、そこから藍色のぶよぶよした物体――スライムが現れる。
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